「北方領土返還」
ロシアからのサインを読み解く

「勢力均衡」に舵を斬る鳩山外交
佐藤 優 プロフィール

< さらに重要なことは、メドヴェージェフ大統領が、昨年10月31日に述べた、「弾圧は正当化されるものではない。人間の命より価値の尊いものはない。」という言葉である。第二次世界大戦終結後、60万人を超える日本人将兵がシベリアに抑留され、そのうち6万人以上が強制収容所で亡くなった。

 この件につき、エリツィン元大統領は、1993年10月に訪日した際、スターリンによる弾圧の結果を認め、天皇陛下、総理大臣、抑留者代表、日本国民に謝罪した。

 過去の過ちを認めることができる国家は強い国家であり、更にその過ちにについて謝罪することができるのは、勇気ある指導者である。このエリツィン元大統領の勇気ある行動が、日本の政治エリートの対露認識を根本から変え、自分(鈴木委員長)も日本の対露政策転換に大きく関与した。 >

 シベリア抑留問題も北方領土問題も、スターリン主義によってもたらされたものだ。反スターリン主義の切り口から北方領土問題を解決することが可能か、鈴木氏は瀬踏みしているのであろう。

 そして、勢力均衡外交の重要性を強調する。

< 1997年7月、当時の橋本(龍太郎)総理は、ユーラシア戦略に関する演説を行った。

 当時、NATOは西側からロシアを封じ込める政策をとっていたが、これに対し日本は、21世紀のアジア太平洋の新秩序を形成するのは、日露米中の4大国であり、その中で最も2国間関係が持つ潜在力を発揮できていないのが日露である、日露を接近させることが、日本の国益、ロシアの国益を促進させ、地域の安定に貢献すると考えた。

 そのような中、パノフ学長が鍵を握る重要な役割を果たし、政治、経済、文化の関係を戦略的に発展させる中で段階的に北方領土問題の解決を図るとの認識が日露両国の政治エリートの間で共有されるようになった。

 自分(鈴木委員長)は、日本の愛国者であり、それゆえ日本の名誉と尊厳を大切にする。同時にロシアの名誉と尊厳も尊重する。それは、ロシアの愛国者の気持ちが分かるからである。

 ロシアの名誉と尊厳が守られることは極めて重要であり、ロシアの名誉と尊厳を毀損する形での北方領土問題の解決はあり得ないと考えてきたし、今でもそのように考えている。>

 鳩山総理と鈴木氏は、対露関係についてよくすりあわせを行っている。勢力均衡外交という発想は、目的関数を設定し、それにどのような制約条件があるかについて考える鳩山総理の「政治を科学する」思想と親和的だ。

ロシアからのサインが読めない外務官僚

 ロシア側は、鈴木氏の訪露の成果について、ロシア国営放送「ロシアの声」(旧モスクワ放送)を通じてシグナルを日本政府に対して送ってきた。