「北方領土返還」
ロシアからのサインを読み解く

「勢力均衡」に舵を斬る鳩山外交
佐藤 優 プロフィール

 過去の史実のどれを取り上げ、どう意味づけるかによって、歴史認識が大きく変化する。日本は中立条約を遵守したが、ソ連は一方的に破棄した。この史実を動かすことはできない。この点を衝いて、ナチス・ドイツと日本を同一視できないという認識を鈴木氏はロシアの政治家と有識者にもたせようとしている。

 さらにメドベージェフ大統領の発言を引用し、反スターリン主義という価値観を堅持することが国際社会におけるロシアの利益にかなうという見方を鈴木氏は示している。

< 自分(鈴木委員長)は、5月7日付の「イズヴェスチヤ」紙に掲載された、5月9日の対独戦勝65周年記念日を前にしたメドヴェージェフ大統領のインタビュー記事を読んだ。同インタビューにおいて、メドヴェージェフ大統領は次のように述べた。記事の一部を引用したい。

「当時のソ連国民に選択肢などなかった。命を落とすかもしれなかった。あるいは奴隷になるかもしれなかった。これは動かしようのない事実である。もう一つ、誰が始めた戦争かということである。この点はニュルンベルグ裁判の資料のみならず、多くの人の記憶に照らしても明らかである。

 大戦時の赤軍及びソ連国家が担っていた使命とその後起きたことを分けて考えることは、一般の人々の常識であり、歴史家の腕前というものである。」。

 また、スターリンに対しては、「自国民に対し多くの罪を犯し、彼の生涯に成功もあったが、国民への犯罪行為を許すわけにはいかない。」。

 このメドヴェージェフ大統領の言葉に全面的に賛成するものである。メドヴェージェフ大統領の考えは一貫している。例えば、2009年10月31日、メドヴェージェフ大統領は、スターリンの政治的弾圧について次のように述べている。

「弾圧は、正当化されるものではない。人間の命より価値の尊いものはない」

 これは非常に重い意味を持つ言葉である。自分(鈴木委員長)は、これまで一貫して、日露関係を、地政学的、戦略的に発展させるべきとの立場をとってきた。北方領土問題に関しても、当時ソ連が中立条約を侵して日本を攻撃した点だけを取り上げ、ロシアを激しく非難する人達がいる。

 しかし、そのような歴史認識に対しては、日本はナチス・ドイツの同盟国ではなかったのか、ソ連は英国や米国との約束を守って日本を攻撃したのである、ソ連のみが責められる筋合いのものではないとのロシア側からの反論を招いてしまう。

 このような議論は歴史専門家に任せるべきであり、我々は大きな歴史の中で、ファシズムが打倒され、ドイツも日本も、自由と民主主義を基本とする国家となったことに目を向けることが重要であると考える。 >

浮上した勢力均衡外交

 そして、反スターリン主義を、シベリア抑留者問題につなげる。