「北方領土返還」
ロシアからのサインを読み解く

「勢力均衡」に舵を斬る鳩山外交
佐藤 優 プロフィール

 この局面を打破するために、現在、潜在力を使い切れていない日露関係を発展させようと鈴木氏は考えている。反テロ、資源エネルギー、ハイテク(特にナノテクノロジー)などの分野で、日露協力を戦略的に進めることによって、懸案の北方領土問題を解決することを鈴木氏は考えている。

モスクワ出発直前に首相と交わした会話

 モスクワに出発する2日前の5月8日に、鈴木氏は総理官邸で鳩山由紀夫総理と30分間会談した。鈴木氏はこの会談の内容について筆者に「普天間問題と北方領土問題について半分くらいずつ話した。

 北方領土について、鳩山総理は『鈴木さんの言う現実的解決論でいきたい』と言っていた」と述べていた。現実的北方四島返還論が鈴木氏の持論だ。これにはいくつかの形態があるが、一例をあげれば次のシナリオだ。

 歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島からなる北方四島に対する日本の主権確認を求めるという基本方針は揺るがさない。ただし、1956年宣言で日本への引き渡しが約束されている歯舞群島、色丹島についての解決と、引き渡しについてロシアが一切コミットしていない国後島、択捉島の扱いに差異をつけ、交渉を行う。

 2001年3月、イルクーツクで行われた森喜朗総理とプーチン大統領の首脳会談のときの方針に立ち返るということだ。この現実的四島返還論に基づくならば、北方領土交渉が再び動き始める。

 第2の理由は、最近、ロシアで反日機運を煽る動きがあり、その流れを抑えるためだ。今年の5月9日は対独戦勝65周年の記念日で、現在、ロシアの愛国感情が高揚している。ロシア政界の一部に9月3日を「軍国主義日本に対する勝利の日」を記念する祝日にしようとする動きがある。

 5月11日、鈴木氏は外交アカデミーで講演した。外交アカデミーは、幹部外交官や国際問題に従事する国会議員を教育する政策に影響を与える重要な研修機関兼シンクタンクだ。ロシアの外務次官と駐日大使を歴任したアレクサンドル・パノフ氏が学長をつとめる。

 この演説(5月17日付「ムネオ日記」に全文が掲載されている)は戦略的に実によく練られている。

 まず、日ソ中立条約に言及し、ソ連がナチス・ドイツに対して勝利することができなのは、日本がこの条約を遵守したからであると鈴木氏は強調する。

< 5月9日、対独戦勝65周年記念日を迎え、自分(鈴木委員長)からもこの歴史的な日を心からお祝いしたい。ソ連が対独戦争に勝利する上で日本は大きな役割を果たした。当時、日本はナチス率いるドイツと軍事同盟を締結していたが、同時にソ連とも中立条約を締結していた。

 中立条約とは、仮に、ソ連がどこかの国と戦争を始めても、日本は中立を保つ、また、逆に日本が戦争を始めても、ソ連は中立を保つということをお互いに約束したものである。当時、ヒトラーは日本に対し、ドイツとの軍事同盟を優先し、ソ連を攻撃するように何度も要請した。しかし、日本はそれをはねのけた。

 仮に日本が別の選択をしていたのなら、歴史は変わっていたであろう。日本の選択は正しかった。なぜなら、ファシズムは全く間違っていたからである。ヒトラー率いるナチスの悪行は言語に絶する。まずはこの点を皆様にお伝えしたい。 >