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美智子さまが「皇后最後の誕生日声明」に込めた、静かなる叫びの正体

随所にちりばめられたメッセージを読む

美しい山の稜線に突如、黒々とした岩石が顔を出したかのようだ――。

ある宮内庁幹部はこう形容した。皇后美智子さまが今日、「平成最後の誕生日」に発表した声明の「ある部分」を指して、である。

〈陛下の御譲位後は、陛下の御健康をお見守りしつつ、御一緒に穏やかな日々を過ごしていかれればと願っています。そうした中で、これまでと同じく日本や世界の出来事に目を向け、心を寄せ続けていければと思っています。

例えば、陛下や私の若い日と重なって始まる拉致被害者の問題などは、平成の時代の終焉と共に急に私どもの脳裏から離れてしまうというものではありません。これからも家族の方たちの気持ちに陰ながら寄り添っていきたいと思います〉

皇室に嫁がれておよそ60年の歳月を穏やかに振り返る声明の中で、唐突に言及された「拉致被害者」の話題。そこにはいったい、どのような意図が込められているのか。

 

宮内庁、騒然

天皇皇后両陛下、皇太子と皇太子妃雅子さまは、毎年の誕生日に会見を開き、「お誕生日に際してのご感想」を発表している(雅子さまは例年、文書での発表)。その際、宮内記者会に加盟する報道機関15社は、事前に質問事項を取りまとめて宮内庁へ提出する。

しかし、今年の美智子さまの誕生日は「異例」であった。9月に入ってから、会見を取り仕切る高橋美佐男侍従次長が、宮内記者会幹事社のTBSと産経新聞(注:その後交代し、現在は日本テレビと北海道新聞)に対して、こう申し入れたのだ。

「このたびの皇后陛下誕生日会見は、事前質問をなくし、皇后陛下が語りたいことを語れるようにしていただけませんか? これが最後の公式会見となります。お話しになりたいことを、存分に話していただきたいのです」

もとよりご高齢を鑑みて、2015年から、天皇皇后両陛下への事前質問は1問に絞られている。申し入れを受けた宮内記者会は、記者総会を開いて各社の質問案を出し合い検討した。その結果、

「今年の相次ぐ自然災害と、平成の30年間を振り返っていただきたい」

という内容で、9月下旬に改めて高橋侍従次長に要望することになった。

皇后陛下は、折しも10月に入ると風邪で体調不良となり、都内で10月7日に開かれた障害者和太鼓大会には、天皇陛下がひとりで出席した。高橋侍従次長から宮内記者会へ、「今年の皇后陛下の誕生日は会見をなくし、文書のみの回答としたい。ご要望に沿ったお答えをいたします」という旨の通告がなされたのはこの頃だ。

「それから美智子さまは体調不良を押して、何度も原稿の推敲を重ねました。結果として、記者会が要望した『平成の30年を振り返る』だけでなく、実直な美智子さまらしい『皇室の60年を振り返る』ともいうべき、充実した内容になったのですが…」(前出・宮内庁幹部)

仕上がった原稿の内容が明らかになると、宮内庁は奥(=侍従、女官をはじめ内廷職員)も表(=宮内庁特別職)も騒然となった。冒頭にひいた「拉致被害者」への言及をはじめ、予想外かつ意味深な内容が盛り込まれていたからだ。