「鉄腕アトムのテーマ」は、別の曲に差し替えられる予定だった

作曲者・髙井達雄氏が語る誕生秘話
現代ビジネス編集部

「若い人で谷川俊太郎さんっていうんだけど」

今度は、急いで歌詞をつけることになりました。でも、ぴんとくる作詞家がすぐに思い浮かびません。すると手塚さんが「僕、ひとつアイデアがある。1週間くらい前に出版記念会で会った若い詩人がいて、詩集(『二十億光年の孤独』)をくれたんだ。君と同じぐらいの若い人で谷川俊太郎さんっていうんだけど、頼んでいい?」というので、もちろんいいよ、と。

 

その1~2週間後、谷川さんから電話がありました。

「僕は歌えないんで今からここで詩を言います。髙井さん、聞いて何か言ってください」

こう言うと、電話口で詞を語ってくれました。音楽にぴったりだと思ったけど、一か所だけ気になるところがある。

今の歌詞でいうと、

<こころ優し(い)>

この部分が <優しいこころ> になっていたんです。

「これは音楽に合わせると『優しい』にはならずに『優しこころ』になる。あなたは『い』音を入れたいのではないですか?」

と僕が言うと、谷川さんは電話口でちょっと考えて、

『こころ優し』ではどうでしょう?

と申し出ました。

<こころ優しぃ>なら合いますから、それでいいでしょう、とお返事しました。

そこからは、また音楽的な調整です。元の譜面だと歌詞を歌う子供コーラスにはキーが高すぎるので、ハ長調だったのを変ロ長調に書き変えました。今、いろいろなところで流れている『鉄腕アトムのテーマ』はこの変ロ長調版です。

髙井さんの手による『鉄腕アトムのテーマ』(歌詞つき)の楽譜。in B♭ と「変ロ長調」であることを示す書き込みが見える 撮影/松井雄希

歌つきテーマを録り直すのにも苦労しました。

アトムのテーマは、曲の最後、トランペットパートに、すごく高い音があるんです。じつは当時、この音が出せるトランぺッターは日本で二人しかいませんでした。

今なら誰でもできますが、60年前はまだまだできなかったんです。彼らを確保して至急音入れをしなければならなかった。綱渡りのような録音でしたね。

でも、そうやって苦労して録った歌が流れ始めて2~3週した頃、我が家の前にある小学校の子たちが、歌いながら帰っていくようになりました。

手塚治虫さんが作ったパイロット版は、ミュージカルやクラシックが仮のBGMとして入っていた。それらは決して子供向けではありませんでした。

手塚さんはアトムを子供向け作品として描いたわけではありません。彼は自分が描きたいことを描いた。それだけだったと思います。そして、私も手塚さんの思いを受けて、あの曲を作ったのです。おかげさまで、それから今まで、『鉄腕アトムのテーマ』は1年も途切れず、様々なところで使われ続けています。ありがたいことです。

インタビュー・構成/花房麗子

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