「鉄腕アトムのテーマ」は、別の曲に差し替えられる予定だった

作曲者・髙井達雄氏が語る誕生秘話
現代ビジネス編集部
このAの曲こそが、『鉄腕アトムのテーマ』だ。会議の大勢がBかC、となりそうになったとき、手塚治虫が声を挙げた。
「私はAです。これがぴったりだから、これを推薦します。もしこれがいやだというなら、作品を他のスポンサーのところに持っていってもいい」ここまで原作者に言われ、同席していた人々も慌てた。

「先生がそこまで言うのなら……」とAに決まる。ただ、それでもワンクール流してみて、評判が悪かったらBまたはCに変えることを検討する、という但し書きつきだったという。
 

ちょっと専門的な話になりますが、『鉄腕アトムのテーマ』には、ドレミファソラシドにない、いわゆるピアノの黒鍵の音が入っているんです。臨時記号があって、子供がリコーダーで演奏すると難しくなる。もうひとつ、リズムの問題もありました。

皆さん、いまではなんとも思わないですが、出だしの「ター、ター、タター、タ、ター(そー、らー、をこー、え、てー)」という「タター」の部分、音楽用語でシンコペーションというのですが、これを使っている子供の歌はそれまでなかった。だからこそ、会議に来ていた人たちは「子供の音楽を知ってるのか」といわんばかりに私に言ったのでしょう。

僕はわざと難しいことをしようとしたわけではありません。ただ、リズム感があって、アトムは空を飛ぶから〝上がっていくような感じ〟がいいと思ったんです。

「アトム」の放送が始まったのは1963年1月。ワンクール目はまだ歌(歌詞)がついていませんでした。まもなく担当者から電話があって「髙井さん、箱いっぱいに手紙が来ているよ。あの楽譜はいつ売り出されるの?ってね」。

1963年に放送開始の頃の『鉄腕アトム』「アトムのテーマ」はまだ歌詞がなかった 公式Youtubeより©手塚プロダクション

もちろん差し替えの話はなくなりました。BとCは、そのあと、どこかのコマーシャルに使いまわしましたね(笑)。