医者が診断時、政治家並みに「煮え切らない説明」をする理由とは

覆面ドクターのないしょ話 第36回
佐々木 次郎 プロフィール

ありふれた日常診療にもかかわらず、白黒はっきりさせにくいのが、水虫の診断だ。

あるクリニックに、足の水虫(専門用語で白癬という)の診断と治療を希望して来院した患者さんがいた。

白癬の診断には顕微鏡を用いる。痒かったり、ジクジクしたりした足の皮膚の一部を採取して顕微鏡で観察する。原因である水虫菌(白癬菌)はカビの一種で、これが見つかったら「黒」=水虫確定だ。カビをやっつけてくれる水虫薬(抗真菌薬)による治療が開始される。

その場で検査は行われたが、医者が足のどこを調べても白癬菌は見つからなかった。患者さんには「白癬(水虫)を認めず≒白」と説明したが、水虫が疑わしいので、念のため水虫薬を処方しておいた。

 

ところが、この患者さん、どうしても水虫だと断定してほしかったらしい。別の病院に行ったら、あっさり水虫だと診断され、押っ取り刀で引き返し、前医に怒鳴り込んできた。

「先生は『白』、あっちの病院では『黒』、一体どっちなんですか?」

たぶんこういうことだ。前医は、水虫が疑われた部分をくまなく調べたが、顕微鏡で見ても白癬菌はいなかった。だが、後医が調べた皮膚にはたまたま白癬菌がいて、一発で「黒」と診断できた。後医のようなタイプの医者がしばしば「名医である」と言われるゆえんである。

やはり「異常なし=水虫がいない」と言い切るのは難しい。だが、この前医の賢いところは、水虫の証明はできなかったけれども、それを疑って水虫薬を処方しておいたことだ。当初、不満気味だった患者さんだが、前医の処方薬が功を奏したので、その後、大変満足したという。

医者たちは「異常なし恐怖症」「異常を認めず強迫症」なのかもしれない。「異常なし」と言い切らずに、必ず防御線を張ることも大切だ。

とはいえ、「疑い」がある場合、裁判官の「疑わしきは罰せず」ではなく、「疑わきは許さず」という姿勢で、きちんと手を打っておくのが、グッド・ドクターであり、スマート・ドクターなのだ。

NHKの気象情報を見ていたら、気象予報士の関口奈美さんがこう言っていた。

「明日は晴れのマークが付いていますが、時間によっては局地的ににわか雨が降るかもしれません。ぜひ折り畳み傘をお持ちください」

関口さん、その対応、さすがです! お見事!