「胸やけですか? その症状、逆流性食道炎かもしれません」
これは薬のCMのセリフであるが、医者もよくこういう説明の仕方をする。病名を挙げて人を脅かしておきながら、「かもしれません」「可能性があります」などと煮え切らない説明をするのだ。
他人事のように書いていますが、かくいう私も、患者さんに説明するときは、白黒つけない物言いに終始しております。
かつて、ピザの宅配の広告に次のように書かれたものがあった。
「○○分以内にお届けできなかったら、全額返金いたします!」
潔いっ! このくらいキッパリ言ってみたいものだ。
「病気が治らなかったら全額返金いたします!」
美容外科ならどうなるだろう?
「キレイにならなかったら手術代はいただきません!」
「術後、男にモテなかったら全額返金いたします!」
こんなこと私は絶対に言えない。ずっと煮え切らないまま医者をやってきた。
私の独断と偏見ながら、「煮え切らない説明をする職業」トップ3は次の通りである。
1 気象予報士
2 証券アナリスト
3 医者
まず気象予報士の場合。
たとえば、台風情報はこのような説明になる。
「台風〇号は勢力を維持したまま日本列島に接近する模様です。予報円の西側を通れば九州・四国地方に、東側を通れば東海・関東地方に大雨が降る見込みです……」
「模様」とか「見込み」を多用していて、やっぱり煮え切らない。
衛星画像を見ると、
「接近する模様です」
じゃなくて、
「どう見ても接近してるんだけど……」
と思う。
それから予報円が大き過ぎて、日本全体がすっぽり入ってしまっている。
「それじゃ、日本全部じゃん!」
と言いたくなる。
現在、日本は高性能の気象衛星「ひまわり」を持っているし、過去のデータの蓄積もある。率直に言って、天気予報は高い確率で当たっている。それでも天気が大幅に外れることがある。
私が最も記憶に残っているのは2013年の成人の日の大雪である。あの日は電車が止まってしまい、私も家族も帰れなくなり、雪の中を延々歩いて帰るというひどい目に遭った。
予報に対する期待値が高いだけに、外れたときの失望感も大きく、庶民としては、
「また外れた」
と、文句のひとつも言いたくなるのである。
しかし、目に見えないものまで予測するんですから、お互いに大変ですよね。お察しいたします。
次に煮え切らない説明をする職業は証券アナリストだ。
今年はリーマン・ショックから10年になる。さらに2020年には東京オリンピックがあり、オリンピック前後の景気がどうなるのか、気になるところである。これから株価は上がるのか? 証券アナリストたちは以下のように説明する。
「アメリカのFRBの対応に関心が集まっています。アベノミクスがどこまで効果を発揮するのかが鍵となりますが、新興国の動向にも目が離せません」
じゃ、どっちなんだよ! 株は売るべきなの? 買うべきなの?
最後に証券アナリストが使う常套句がこれだ。
「中国経済の先行きが依然不透明です」
全部これでまとめられちゃうとねぇ……。でも、お互いに胃に穴が開くほど神経すり減らして仕事してますよね。
お察しいたします。