もう脱退しかないのか?日本が窮地に陥った「国際捕鯨委員会」の内幕

歩み寄りの余地なし
松岡 久蔵 プロフィール

「捕鯨=悪」となった理由

こうした対立を目にして、多くの日本の読者が抱くであろう素朴な疑問が、「そもそも反対派は、なぜそこまで捕鯨を強く糾弾するのか?」ではないだろうか。欧米各国も、例えば宗教戒律による食のタブーは積極的に容認する国が少なくない。なぜクジラだけが特殊なのだろうか。

私が取材を進めてみてわかったのは、結局、欧米各国が捕鯨支持国を糾弾する最大の理由は――身もふたもない言い方になるが――「世論が支持するから」である、ということだ。

そもそも、現在欧米でマジョリティとなっている「捕鯨=悪」という世論は、1960年代から活発化した環境保護運動によって形成されたものといえる。当時、日本は高度経済成長のまっただ中にあり、アメリカを筆頭に欧米諸国との間で貿易摩擦を抱え、国際的バッシングを受けるようになっていた。

一方で、欧米では長引くベトナム戦争への反発を背景に、60年代から環境保護の思想が一般にも広まっていった。1962年にはレイチェル・カーソンの『沈黙の春』が社会に衝撃を与え、1972年には国連人間環境会議が開かれるなど、エコロジーが「先進国の常識」となったのが、まさにこの時代だ。

とりわけ、中心的なイシューの一つとされたのが捕鯨だった。アメリカのニクソン大統領は1971年に海洋哺乳動物保護法を制定し、率先して捕鯨禁止に舵を切っている。背景に、大統領と環境保護団体の政治的結びつきがあった、と指摘する向きもある。さらにこうした社会情勢の中で、欧米における捕鯨批判とジャパン・バッシングの世論が接続していった側面も否めない。

世界の環境保護団体は、ロビイストとしての顔ももつ。政治家や自治体に対して環境保護を重視する政策を提言する一方、たとえば捕鯨支持国の観光地へ行かないよう呼びかけたり、彼らの立場に沿わない政治家や企業のネガティブキャンペーンを張ることもある。

政治家たちは支持を得たいし、環境保護団体に目をつけられることも避けたいから、あえて「捕鯨賛成」を唱えるはずもない。こうした経緯があって、いまや欧米では、反捕鯨の世論は動かしがたい状況だ。

 

日本の提案も空しく…

話を先月のブラジルでの総会に戻そう。日本は今回、資源が豊富な鯨種に限って商業捕鯨を再開すること、またIWC総会での決議要件を一定の条件付きで緩和することをワンセットで提案した。

IWCでは、商業捕鯨再開のための捕獲枠の決定や、反対に禁漁区を設定するといった際には、総会に参加した国の4分の3以上の賛成が必要になる。現在は全加盟国89カ国のうち、捕鯨支持国41カ国に対して反捕鯨国48カ国となっているため、日本などの捕鯨支持国が商業捕鯨を再開しようとすることは事実上不可能である。

アメリカ、EU、オーストラリアなど、裕福な先進国・地域が中心の反捕鯨国陣営に対して、捕鯨支持国はアジア・アフリカの途上国が多数を占めており、外交力や資金力の面で大きな開きがある。日本は政府開発援助(ODA)を通して、アフリカ諸国を捕鯨支持陣営に引き入れているが、劣勢が逆転できるわけではない。そこで、「4分の3 以上の賛成」という決議要件を、過半数まで引き下げることを提案したのである。