キャッシュレス「推進したい政府」と「躊躇する業者」のスレ違い

浅草の仲見世商店街にも聞いてみた
我妻 弘崇 プロフィール

迷走する政府のキャッシュレス対策

こういった諸々の問題に鑑みるに、国が主導し、6つの主要銀行が共同開発したスマートフォン用の決済アプリケーション「Swish」を普及させたスウェーデンの例に倣うか、アリババ(Alipay)、テンセント(WeChat Pay)という超巨大企業による寡占状態を作り出した中国の例に準ずるでもない限り、日本のキャッシュレスは“船頭多くして船山に上る”状態になりかねない。

「キャッシュレス決済を40%まで引き上げる」とアドバルーンをぶち上げるのは勝手だが、実際のところ政府は、大上段に振りかぶるだけ振りかぶって、気合(掛け声)だけで押し切ろうとしているのではないか? と疑いたくなってくる状況だ。

 

たしかに、今年8月、決済手段を普及させるために、新たにキャッシュレス決済を導入する企業を対象に、一定期間、減税する仕組みを検討するなど、後押しをしていないわけではない。しかし、それらはあくまで間接的な介入であり、直接的な支援には程遠い。

さらには、来年10月に予定されている消費税10%への引き上げ(軽減税率制度開始)時に、「クレジットカードなどを使って中小規模の店舗で買い物をした顧客に、増税分の2%をポイントで還元する対策を検討」という耳を疑うような方針を、政府が検討していると報じられている。

臨時措置ではあるものの、必要な端末の配備やポイント還元の費用を「公費で補助する」方向だという。しかしこれでは、還元されるポイントを扱う一部の企業が潤うだけで、キャッシュレスの普及に求められている一本化、簡略化につながるとは、到底思えない。そもそも、なぜポイントで還元されなければいけないのか? 公費でポイント分を企業に補助する暇があるなら、他にやることがあるのではないか。

現在、中小企業庁では、軽減税率制度への対応が必要となる中小企業・小規模事業者などに対して、複数税率対応POSレジやタブレットの導入や、受発注システムの改修などを行う際の経費の一部を補助する「軽減税率対策補助金」の制度を受け付けている。

国は、こうした消費税増税対策を行うついでに、その勢いでキャッシュレス推進も行おうとしている気がしてならない。しかし、どちらも事業者、消費者にとって、生活を左右する重大なテーマだ。混乱が起こらないよう、分けて考えてほしいものだ。

木更津市役所、木更津商工会議所、君津信用組合が取り組む電子地域通貨「アクアコイン」など、官民が一体となり独自にキャッシュレス化を推進している地域もある。しかし、その背景には地域経済や地銀の限界という一枚岩にならざるを得ない状況がある。

その一方で、2014年から2016年の2年間で、インバウンド数が57.8%増加という飛躍的な数字を誇る台東区ですら、キャッシュレス化への石橋を叩いて渡る姿勢を見せている。

乱立する決済方法、地域ごとに異なる事情、公費でポイント補助という首を傾げざるを得ない政策……どれだけ国が声高に「推進」を叫んだところで、このままではキャッシュレスの大号令は、掛け声倒れになってしまうのではないかと不安で仕方がない。