キャッシュレス「推進したい政府」と「躊躇する業者」のスレ違い

浅草の仲見世商店街にも聞いてみた
我妻 弘崇 プロフィール

多様化、複雑化する決済手段が仇となる

となると気になるのが、これらの商店街を所轄する台東区の取り組みだ。行政が主導して、キャッシュレスを積極的に普及させるということはあるのだろうか? 

「中小企業関連の事業助成金を管轄する産業振興事業団という区のセクションがあります。これまでインバウンド対策として、免税の書類を発行するソフトウェアや、パソコンやタブレットを導入するにあたっての補助事業はありましたが、現状、キャッシュレス関連の設備投資への補助事業はありません」

 

と、台東区の産業振興課が回答するように、区としてもキャッシュレスを後押しすることができないという。そこには、以下のような事情がある。

「補助事業を組むにあたっては、補助をする事業者の範囲や金額などスキームが必要となります。公費を投入する以上、できるだけ効果が見込めるものでないと難しい。しかし、現状は多様な非現金決済方法が登場しています。中小企業に対するIT機器の導入を促進していく必要性は認識しているので、国や東京都の動向を注視しているというのが、現状です」(台東区産業振興事業団)

決済の方法、サービスの種類が増えれば増えるほど、何が普及するのか分からなくなるため判断が難しくなるといった問題も浮き彫りになる。

過去、日本は非接触ICチップ「モバイルFeliCa ICチップ」を搭載したおサイフケータイを浸透させるも、非接触型ICチップ「TypeA/B」が国際規格になったことで後塵を拝し、ガラパゴス化の一途をたどった苦い経験を持つ。現在、ようやくQUICPayやiDが浸透しつつある中で、Origami Pay、 LINE Pay、楽天ペイ、Amazon Pay、PayPayといったQRコード決済が猛追の兆候を見せている。

となると、自治体としては懸念を抱いてしまうだろう。こうした複数の決済方法はどれも決定的にシェアを取りきれず、“FeliCaの二の舞”になるやもしれない。結果的に、静観……すなわち、補助事業を組むことに躊躇せざるを得なくなってしまう。

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また、「決済方法が増え、複雑になることで、高齢の店主などは拒否反応を示します。若いアルバイトが対応するときは決済ができるのに、高齢の店主のときは決済ができないというように、サービスの差が生じる可能性もあるため、決済方法の複雑化は避けたい」と、前出・仲見世商店街の担当者が語るように、できるだけ簡単かつ単純な非現金決済に絞ることが求められる。

「設置し読み取るだけのQRコードであれば、導入コストの低さに加え、ITに抵抗感のあるお店に対しても障壁は低いと考えます。また、区としては災害時の停電なども考慮して、何が良いのか探っていかなくてはいけないと思っています」(台東区産業振興事業団)

「インバウンド増加に伴い、翻訳アプリの使い方の講習会を開いてほしいといった要望を伝えるなど、台東区と商店街は、地元を活性化したいという点で連携を取っています。ですが、キャッシュレスに関してはなかなか難しい。そもそも浅草界隈には、66の商店街があります。店舗だけではなく、各商店街によっても事業は異なるわけですから」(前出の仲見世商店街振興会の担当者)