〔PHOTO〕gettyimages
# 消費税

安倍首相「消費税10%宣言」は経済的負け組への第一歩かもしれない

あるエコノミストの雑感

「可能性はゼロではない」が

10月15日に安倍首相は来年10月に消費税率を予定通り現行の8%から10%へ引き上げることを表明した。

同日夜に行われた記者会見で安倍首相は、消費税率引き上げによる消費の落ち込みを軽減させるための措置として各種の軽減税率や自動車、及び住宅取得に係る減税措置の導入などを盛り込む方針であることにも言及した。さらにこれに加え、「国土強靭化」のための公共投資拡大の方針にも言及した。

この「消費税率引き上げ実施宣言」は、従来のアベノミクス支持者からの強い批判を浴びているようだ。なかには、来年の消費税率引き上げによって再デフレが確定的との悲観的な見方も台頭しつつある。

ところで、その後の菅官房長官による記者会見における「消費税率引き上げはリーマンショック級の経済危機が起こらない限り実施する」との発言を受けて、従来、「安倍首相は消費税率引き上げを見送る可能性がある」と予想していた識者が、「今回も消費税率引き上げが凍結される可能性はまだゼロではない」とコメントしているのをみかけた。

どういう風にコメントするかは自由だが、今回の件に関して「可能性はゼロではない」という発言ほどあいまいで無責任なものはないと思う。

識者にとっては、この「可能性はゼロではない」という発言は、万が一、リーマンショック級の経済危機が到来し、安倍首相が消費税率引き上げを見送った場合には、「見通しが的中した」というアピールにもなるし、消費税率引き上げが予定通り実施された場合には、「実施される可能性が高かったことはわかっていた」ということで、これまた「予想通りになった」とアピールすることができる。すなわち、発言に対する好都合なリスクヘッジに過ぎない。

 

識者のコメントは、ユーザー側の消費者や事業者にとっては、意思決定をする際の参考にすることが本来の目的であろう。今回の消費税率引き上げについても、消費者や事業者が来年10月からの消費税率引き上げをどの程度見込むかで今後の行動が大きく変わってくる。

自動車や住宅などの高額消費を控えている消費者はその購入のタイミングを変えるかどうかの検討をする必要があるし、事業者は、消費税率引き上げによる需要変動の見通しから、店舗展開や価格設定などを変える必要が生じてくる。

この際、「可能性がゼロではない」という類の発言は、その消費者、事業者の意思決定に何の役にも立たないばかりではなく、その識者を「信奉」する人にとっては意思決定を攪乱させることになりかねない。

そういう筆者もかつて、話題は全く異なるが、会社で同様のコメントをしたことがある。その際、トレーダーから、「『可能性はゼロではない』とか言われても投資戦略立てようがないんだよ。そんなコメントは不必要なだけではなくかえって邪魔だ」と言われたことがあり、考えてみれば全くその通りだと納得したことを思い出したのであえてここで言及してみた。

今回の安倍首相による「宣言」も、1年前に消費税率引き上げの方針を国民に伝達することで、消費者、及び事業者に一定の準備期間を与えることを目的としたものであろう。よって、その後、仮に消費税率引き上げが実施されない事態が生じたとしても、それは一種の「テールリスク」であることを意味しており、自然災害と同様、予測して的中したかどうかを競うのはナンセンスであるということだろう。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら