2018.10.21
# アメリカ # スクールカースト

カバノー最高裁判事の性暴力疑惑に見る「米国のスクールカースト」

「イヤーブック」が写す光と陰
吉原 真里 プロフィール

カバノー氏のプロフィール文にはさらに、Devil’s Triangleという記述がある。公聴会でこの言葉の意味を問われたカバノー氏は、飲み会でのゲームの一種だと答えたが、そういう名のゲームは当時でも現在でも知られていない。

いっぽうで、Devil’s Triangleとは、二人の男性と一人の女性の性行為の指す口語表現である、という指摘がされている。これについても、カバノー氏に実際そうした性行為の経験があったかどうかは、証明する術もなく、究極的な問題でもない。問題なのは、そうした行為を自慢げにイヤーブックで言及する、という文化である。

 

イヤーブックの光と陰

カバノー氏が通ったジョージタウン・プレパラトリー高校は、ワシントン近郊の名門私立男子校であり、現職最高裁判事のニール・ゴアサッチ氏をはじめ、さまざまな分野のリーダーを輩出している。今回の事件とイヤーブックが露呈した、飲酒やパーティや性行為を吹聴するような文化は、35年前のその学校の一部の学生たちのあいだでのものであり、それをもとにアメリカ全体を論じるのは乱暴である。

そのいっぽうで、アメリカのどこの中学や高校にもあるイヤーブックには、カバノー氏の高校時代にも現代にも通じる、アメリカの学生文化、ひいてはアメリカ社会の様相が垣間見られるもの確かだ。楽しい思い出を凝縮しているはずのイヤーブックには、学校生活や若者文化、その背景にあるアメリカ社会の光と陰も映し出されている。

イヤーブックにコメントを書き合う様子はアメリカではおなじみのシーン。ドラマでもよく取り上げられる。写真は、ドラマTHE GoOLDBERGS season 4より〔PHOTO〕Gettyimages

イヤーブックでは、生徒の顔写真は、みな同じ大きさで姓のアルファベット順に掲載されるが、その他のページにおいては、生徒たちは決して同列に表象されてはいない。

スポーツ選手が崇められるアメリカにおいては、とくに男子のスポーツ選手はスター扱いされる。イヤーブックにおいてフットボールの選手が占める位置づけがそれを象徴している。カバノー氏がフットボールチームに入っていたことをプロフィールの第一に挙げていることにも、それは示されている。そして、そうした選手を応援するチアリーダーたちも、イヤーブックでは特別な位置を占める。

イヤーブックでは、学業面での優等生もはっきりと明示される。アメリカの多くの中学や高校では、科目ごとに成績によってクラス編成がなされている。一定以上の成績を修めた生徒はHonor Rollというリストに入り、その集合写真もイヤーブックに掲載され、「優等生」としての地位があからさまとなる。

イヤーブックでさらに重要な位置を占めるのが、いわゆる「パーソナリティ」のページだ。全学生徒の投票によって、各カテゴリーにおいて学年のベストとされた男女がペアで写真撮影されるのだ。一般的に、例えば、「髪型」「笑顔」「服装」などに加えて、「スクール精神」「ユーモアのセンス」「おしゃべり」などのカテゴリーがある。とくにアメリカらしいのがMost Likely to Succeedというカテゴリーだ。「将来出世しそう」、いうなれば最高裁判事にでもなりそう、ということだ。

「パーソナリティ」のコーナーで選ばれる生徒と、スポーツのスターや学業での優等生は、重複する部分もあるし、そうでない部分もある。問題児として教師に目をつけられているような生徒が、「パーソナリティ」に選ばれることもある。あくまで人気投票であるから、客観的な事実や明確な基準とは関係なく、最多数の投票を集める魅力や影響力をもった生徒が選ばれる。学業やスポーツなどの「正規」の序列とは別の、 生徒間の人間関係を如実に露呈する、別の形の序列でもある。

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