「起業」が正解か、「会社を買う」のが正解か…二人の経営者の答え

『ダメ億』『サラ3』特別対談
成井五久実, 三戸 政和

値段の付け方

三戸 最終的にJIONを運営する会社を3億円でバイアウトできたのだから、成井さんのケースは間違いなく「成功事例」です。でも、万人がそこにたどり着けるわけではない。

たとえば、起業するときに、出資してもらうこと一つをとっても、知識とテクニックが必要じゃないですか。細かいところでいえば、「テクノロジー」という名前のついた会社は株価が相対的に高い(=お金が集まりやすい)とか、DeNA出身の人が起業するなら、プラス500万円の価値がつくとか。そういう知識とかテクニックを知っているかどうかで、お金の集まり方が全然違ってきます。でも、そういう情報って、なかなか普通の仕事をしている中では入ってこないわけですから。

成井さんは「JION」を立ち上げる時に、いくら出資を受けたんですか?

成井 トータルで1500万円です。ウェブの運営には大体月に100~150万円の費用がかかることはわかっていて、一年間無収益だった場合に備えて、1500万円は必要だと思っていたので。

三戸 1500万円、というのは非常に順当な額ですよね。500万円では足りないし、3000万円は集まらない。でも、1500万円なら集められるぞ、という確信があった、ということでしょう。

その1500万円の内訳も、まずDeNA出身の成井さんが起業するということで500万円、いままでDeNAとトレンダーズで事業を成功させてきたからその才覚に500万円、ウェブメディアは伸びているから300万円、そして女性活躍の応援の意味も込めて200万円……1500万円の算出基準はこんな感じだと思います。

成井 すごい、一瞬で算出しましたね(笑)。

 

三戸 出資案件は何百件とみてきましたからね(苦笑)。なにが言いたいかというと、起業をするというなら、これぐらいの計算はできないとね、ということです。エンジェル投資は、起業家の人となりを見て投資するので、相場なんて関係ない……と思われがちなんですが、やはりなんとなくの相場観というものがある。投資される側も、その相場観を知っているのといないのでは、資金調達の成否が変わってきますよね。

ある事業を興すときに「これだけの額が初期費用として必要になる」ということぐらいは、皆さんしっかり計算するんですよ。でも、「それだけの額をどうやって集めるのか」ということまで考えが及ばないケースが多い。出発前から計画が破綻しているわけです。

成井さんの場合、自分がお金をどれだけ集められるか、が大体分かっていたはず。朝倉祐介さんらが唱えるいまの流行りの言葉でいうなら、「ファイナンス思考」を備えていたわけです。やっぱり、本人の資質や実力、環境はもちろん重要で、そのうえでファイナンスの方法や技術が分かっていないと、起業は成功しない。

成井さんのこの話を聞いて、改めて起業で成功することの難しさを皆さんに知ってほしいですよね。本気で挑戦するなら、じっくりと人脈と経験を蓄積して、ファイナンスについて勉強して、環境を整えていかないとダメだ、ということです。

会社で働くのがイヤになったから、よし起業するぞ! ではなくて、自分が30になるまでに起業しよう、そのためには、あと2年で営業力をつけて、人脈を培って、起業に必要なファイナンスの知識を勉強して……と、しっかりしたプロセスを踏まないとダメなんですよ。

起業をするにもいくつかのパターンがありますが、成井さんのようにバイアウトや株式上場レベルの起業を考えるなら、投資家とのつながりも必要になってくる。だから、やっぱり「サラリーマン生活が嫌だから、起業しよう」という安直な考えでは、うまくいかないんですよね。

自分のキャリアを作っていって、自分への潜在的な投資額を上げていく。起業で成功するための第一条件を説くなら、そうしたキャリアを戦略的に描けるかどうか、ということなんです。

成井 まさに私がこの本(『ダメ億』)で伝えたかったことはそのことなんです。夢をかなえるためには、計画を立てること、夢を設計することが一番重要。あとは、その計画を達成するために、少し背伸びをして動いていけば、自分を応援してくれる人が必ず現れる。その人たちの助けを借りれば、夢をかなえられえる確率はグンと高くなりますよ、ということです。

三戸 起業は難しいですよ、屍だらけですよ、と言い続けてきましたが、本音では、成井さんのように夢をかなえる起業家が増えてほしいとは思っています。ぜひこの二冊を読んで、起業がいいのか、起業は諦めて会社を買う選択肢を視野に入れるか、考えていただきたいと思います。