「起業」が正解か、「会社を買う」のが正解か…二人の経営者の答え

『ダメ億』『サラ3』特別対談
成井五久実, 三戸 政和

システム導入をタダにした方法

成井 三戸さんから見ると「異様な起業」かもしれませんね(笑)。確かに、向こう見ずなところはあったかもしれませんが、やっぱり勝算はありました。当時は女性系のウェブファッションメディアが全盛でしたが、一方で、男性系の情報・ファッションメディアはほとんどありませんでした。男性がデートで何を着ていけばいいか、みたいな気軽なことを教えてくれるようなメディアってなかったんです。

いまでこそウェブメディアの数は数え切れないぐらいありますが、当時はまだ「空いているところ」があった。そこを狙ったのは正解でした。

その狙いが当たって、JIONの読者は立ち上げから順調に増えていったんですが、そうすると次第にクライアントにも注目されるようになる。私はDeNA時代に広告営業を行っていたので、広告をもらうための営業は得意中の得意でした。だから、サイトが大きくなるにしたがって、順調に広告が入るようになったんです。

あとは……やはり友人や仕事仲間の支えがあったのも大きかったですね。それも、心理的な支えではなくて、物質的な支えです。

ウェブメディアをいちから立ち上げようと思うと、少なく見積もっても500~600万円はかかってしまうんです。だから、たとえ1000万円資金調達しても、初期投資ですべて終わって、その後資金が尽きてしまう可能性は十分にありました。

ところが私の場合、幸運にも同じ分野の事業に挑戦している経営者の友人に、システム開発のほとんどすべてをタダでやってもらえたんです。

三戸 え、タダで!?

成井 タダ、といっても、私の会社の株と交換だったんですが。会社がまだ何もしていないときの株なので、タダ同然、ということで(笑)。初期投資が抑えられたことで、その後の運営は随分と楽になりました。

 

三戸 なるほど。普通の人なら「株とシステムを交換できる」っていう発想が思い浮かばないですよね。

成井 それはトレンダーズにしてもDeNAにしても、日本のベンチャー村のど真ん中にある会社だったので、起業のやり方やテクニックに関してはいろいろと知識と情報が入ってくるんですよ。だから、お金がないならこれで代替すればいい、という発想は自然と浮かんできましたね。

三戸 そうやってできるだけ初期投資を抑えたから、いきなり「ホームラン」を狙っていけたと。確かに、それなら起業の成功率はグンと上がります。

いまの話を伺いながら、成井さんが起業で成功した理由はとてもよく分かりました。

起業で成功するには、その人の愛嬌とか馬力といったパーソナルな力があるのは前提条件で、成井さんのように、まず南場さんや経沢さんが周りにいるということ、つまり「人に恵まれている」ことが大事。次に、いまはこの分野で起業が盛んにおこなわれていて、かつ、そこに入り込むすきがあるというような「環境に恵まれている」ことが重要になってくる。

そのうえで「システムの製作費と株を交換する」とか、「資金集めのためにこういう手段がある」といった、お金や経営のテクニックにも精通しておく必要があるんだ、と。

私が「起業で成功するのは難しいですよ」と何度も言うのは、まさにこの点に理由があるんです。

厳しい言い方をすれば、たとえば地方で働いているサラリーマンが、いきなり会社を辞めて「起業する」と言って、じゃあお金をどうするんですか、システムをどうやって作るんですか、最初の資金繰りはどうするんですか、そもそもあなたは副業できるぐらいの経験とスキルがありますか――と聞いても、答えられないことがほとんどなんですよ。

起業をするなら、自分が人と環境に恵まれているかどうか、ファイナンスの知識が足りているかどうかを熟考しないと、本当に痛い目を見ますよ、と。

だから、私はいま、起業を考えるサラリーマンは、少なくともバランスシートの見方をイヤというぐらい勉強した方がいいと言っています。成井さんがやった「株と交換でシステムを作ってもらう」って、バランスシートの発想です。

会社を興すうえで新しいシステムを作らなければならないけれど、お金がない。でも、バランスシートで経営を考えると、「そうか、株はあるよな」と。だったら株を担保にしてシステムを作ってもらおう、それなら費用が掛からない……事業を運営するだけだと損益計算書ばかりに目が行きますが、バランスシート(賃借対照表)の概念も理解していれば、自然とこういう発想が生まれてくる。

逆にいえば、そうした「お金のテクニック」を知らないまま起業という荒地に進んでいくと討ち死にしますよ、ということを伝えたいんだけど。これがなかなか伝わらない(苦笑)。

成井 私も、「夢はかなう」は大声で言いたいけれど、「起業は必ず成功する」とはなかなか言えません(苦笑)。おっしゃる通りで、私は営業が強みだったので、もし事業が上手くいかなくても、自分が営業代行をやることで、自分と社員数名を食べさせていけるだけの経験と自信はありました。

いくらアイデアや調達資金があっても、継続的なお金を生み出す算段がなければ「倒産」という二文字がリアルに浮かびます。なので、少なくとも自分とメンバーだけは、生活ができるレベルの収入源を初期に確保することも大切だと思います。