「起業」が正解か、「会社を買う」のが正解か…二人の経営者の答え

『ダメ億』『サラ3』特別対談

累計12万部を超えるベストセラー『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』の著者・三戸政和氏と、28歳で起業した会社を3億円で売却した経緯を描いた話題の本『ダメOLの私が起業して1年で3億円手に入れた方法』の著者・成井五久実氏。

転職・起業を促す風潮が日々強くなるなか、二人の若き経営者が、転職・起業・M&Aの「表と裏」について語りつくした――。

リリース一枚15万円

三戸 今年の4月に『サラリーマンは300万円で会社を買いなさい』という本を出版したんですが、この本の根底にあるのは「退職して起業をしようと考える人が増えているけれど、起業で成功するのは本当に難しくて、5%ぐらいの会社しか生き残らない。だから、起業に手を出すなら、譲渡先を探している会社を買った方がいい。大廃業時代のいまなら、サラリーマンでも買える会社はいくらでもある」というメッセージなんです。

大学卒業後、ソフトバンク・インベストメント(SBI)という投資会社に入社したので、成功した起業事例をみる一方で、失敗事例もたくさん見てきました。「起業する」と口で言うのは簡単だけれど、実際にやると大変な目に遭うことのほうが多い。だから、その現実を伝えたいと思ったんです。

でも、当たり前のことだけど、成井さんのように初めての起業で成功している人もいる。すごいですよね。28歳の時に立ち上げた会社を、3億円でバイアウトするなんて、絵に描いたような成功事例。エネルギーと熱意と人望のある人なら、起業も確かな選択肢になるんだな、と改めて思いました。

今日は成井さんの事例から、起業の難しさと、成功するために必要な要件を考えたいと思います。改めて自分で会社を興すまでの経緯について、聞かせてくれますか。

成井 私の家庭は、父も母も経営者だったので、大学生のころから「起業したい」という気持ちを強く持っていました。一方で、起業や経営の難しさも肌身で知っていたんです。というのも、私が中二のときに、父の会社が倒産しまして……。

だから、経営者になる前にいろんなことを学んでおくことが必要だなと思っていました。そこで大学卒業後、起業について学べる会社に入ろうと思い、DeNAに入社しました。DeNAはリクルートと並んで「起業家を志すならここで学べ」と言われていた会社だったので。

その後、DeNAで3年働き、26歳の時にトレンダーズに転職、28歳の時に起業、という流れです。

 

三戸 それはいい「準備期間」でしたね。DeNAの南場智子さんも、トレンダーズの社長だった経沢香保子さんも、本当に優れた経営者。その二人の下で働いたなら、確かに起業を成功させるための経験やヒントをたくさんもらえたでしょう。

学生時代に目的意識を持って社会に出るか、漠然と「働かなきゃな」と思って就職するか。その時点ですでに差がつくんですよね。私も学生時代には、就職して5年ぐらいで独立しようと思って会社を選びました。SBIに入れば、投資のイロハはもちろんのこと、経営のイロハも学べるだろうと考えてのことでした。

新卒でDeNAに入るというのは、起業に向かう環境としては最高だったと思うけれど、トレンダーズで働いて、どのタイミングで起業をしようと決めたんですか?

成井 トレンダーズはソーシャルメディアを使ったプロモーションを行うPR会社で、私は、たとえば化粧品メーカーが新商品を出すときに、「ソーシャルメディアを活用して、こんなPR展開をしませんか」と提案するような仕事をしていました。

起業するという目標をもって入社したはずなのに、それを忘れるぐらいがむしゃらに働いて、7カ月連続で売り上げ目標を達成しました。これはトレンダーズ始まって以来の快挙だったんですが、ある時、ふと自分が1年間にいくら稼いだか、売上高を計算してみたら、1億円を超えていたんです。

その時に気づいたんですよ。「世の中を見渡したら、年間の売上高が一億円より低い会社って、たくさんあるよなあ……」って。ということは、自分はいま、ひとつの会社を立ち上げられるぐらいの仕事はしているんだ、と。

ところが、1億円を稼いでいるのに私の給料は1000万円にも満たないわけです。会社で働いている以上は当然のことではあるんですが、そのことに気づくと、やっぱり自分で会社を興したいなという気持ちが強くなったんですよね。

成井五久実氏
なるい・いくみ 株式会社JION代表取締役。起業家。1987年福島県生まれ。東京女子大学卒。会社経営者の父、臨床心理士の母の元に生まれ、19歳の頃から起業を志す。新卒で株式会社DeNAに入社し、デジタル広告営業を経験。その後、トレンダーズ株式会社に転職、100社以上のPR・女性マーケティングを担当する。2016年、28歳で株式会社JIONを設立。会社設立から1年後の2017年、3億円で株式譲渡。現在は株式会社ベクトルグループ傘下の会社のCEOを務める傍ら、女性起業家を支援する活動にも従事している

三戸 もともとは起業することを考えていたわけですからね。忙しくて抑えていた気持ちが、またふつふつと湧き上がってきた、と。

成井 そういう気持ちをお腹の底に抱えるなかで、決定的な出来事があったんです。

ある時、知り合いのベンチャー企業の社長さんから、「今度、新商品を出すんだけど、メディア向けのリリースってどう書けばいいんだろう。教えてくれない?」という相談があったんですね。

確かに私は、クライアントが新商品を出すときに、メディア向けに発信するリリースを作るお手伝いをしていました。なにか特別なことをしているつもりはなかったんですが、その社長に懇切丁寧にリリースの書き方を教えたら、報酬として15万円をもらったんですよ。私個人に対する報酬ということで。

三戸 それはすごい(笑)。月収の半分ぐらいの額をいきなりもらえた、と。

成井 そうなんです。A4のリリースを2枚書くだけで、15万円ももらえてしまった。私にとって、リリースを書くなんて簡単なことだったんですが、その技術やノウハウを15万円で求めている人がいるんだということに初めて気づいたんですね。

そのときに「自分がなにげなくやっていることが、誰かにとっては大きな価値になる」ことを知って、そうか、この差をビジネスにすることが、「起業する」ということなんだ、と気づいたんです。