なぜトランプをキリスト教保守は支持するのか? 奇妙な同盟の内幕

人工妊娠中絶とアメリカ政治
渡辺 将人 プロフィール

トランプ全面勝利…?

一見すると、カバノー最高裁判事就任で、トランプ共和党全面勝利に見えるが、そう簡単ではない。

第1に、キリスト教保守はカバノー判事が、人工妊娠中絶合法をひっくり返す最後の梃になると信じている。そういう幻想が振りまかれからだ。だが、共和党内の司法通が皆口を揃えるように、首席判事を除いた判事比率でも保守が多数派にならないといけない。

もう1人保守系判事就任が欠かせない。リベラル系が保守系の判事に交代したときに中絶非合法化は実現に近づく。カバノー判事就任で安心しきってしまうと、中間選挙の投票率に悪影響しかねない。共和党は上院死守の危機を煽る戦術に転換できるかが鍵だ。

リベラル系のギンズバーグ判事の体力勝負になってくる。癌を2回患っているギンズバーグ判事だが、トランプ政権中は引退しないと決意を固めている。その執念は凄まじい。

ギンズバーグ判事の話になると女性議員や女性活動家達も嗚咽する。「判事にも体力の限界がある。上院で勝利して、私たちの手で中絶合法を守るしかない」と彼女たちは口々に言う。

 

第2に、最高裁の判決は新たな中絶をめぐるバトルの幕開けでしかないことだ。最終的には合法、非合法は州の判断が基本となる。現在も50州で合法ではあるが、中絶クリニックを遠隔地に僅かの数しか認めないなど保守諸州では「嫌がらせ」が残存している。

最高裁判決がひっくり返れば、20数州ごとに合法州、非合法州に分裂し、かつてLGBTがサンフランシスコに全米から集ったように、女性活動家が合法州に大量移住するとも囁かれる。「青」と「赤」の文化的分断は地理的にさらに決定的になる。

第3に、カトリックの動向だ。カトリック穏健派は、不法移民保護、人道外交、格差是正の点で「反トランプ」だ。彼らは中絶合法廃止を強く願うが、必ずしもカバー判事支持ではなかった。

「今回の最高裁指名には立場を保留する。たしかに中絶合法廃止の優先度は高い。しかし、カバノーは中絶非合法化を100%明言していない。彼の就任で決まる保証もない。むしろ移民その他の人道面への悪影響のほうが危険だ」とワシントンのカトリック系政治団体の中堅幹部は述べる。

カバノー就任をもってしてもカトリック票を独占できないとすれば、彼らはトランプにとって「危険な浮動票」であり続ける。