なぜトランプをキリスト教保守は支持するのか? 奇妙な同盟の内幕

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渡辺 将人 プロフィール

キリスト教保守の集金力と動員力

9月下旬、旧知の地元共和党幹部の招待で、アイオワ州デモインで宗教保守の年次会合に非献金者としてゲスト参加した。700人近くが夕食の席を埋め尽くした。外国人は私ひとりだったが、黒人夫妻、ヒスパニック系夫妻がそれぞれ1組いた。それ以外はすべて白人である。

「信仰と自由の連合」アイオワ会合 共和党政治家や牧師が次々に登壇する(筆者撮影)「信仰と自由の連合」アイオワ会合。共和党政治家や牧師が次々に登壇する(筆者撮影)

主催は2009年設立の非営利団体「信仰と自由の連合」だ。2015年の同会合ではトランプも演説した。

ティーパーティと宗教保守の架け橋を目的に設立された全国組織だが、実態としては宗教保守団体だ。

同団体は独自の集金力でも知られる。この日は1つのテーブルに8人席。テーブルの上のコップに8枚の白い封筒が入れてある。司会が「10セントでもいいので、全員が何かを封筒に入れましょう」と声がけする。教会で寄付の容器を隣に回すのと似ているがマイルドな強制力が違う。相席者との心理プレッシャーから、皆我先に信仰心をアピールする。当然10セントで格好はつかない。

創設者で会長のラリフ・リードは、共和党のキリスト教保守票動員を牽引してきた政治コンサルタントである。エモリー大学院で福音派の高等教育についての研究で博士号を取得している学者肌だ(詳細は拙著『現代アメリカ選挙の集票過程』日本評論社2008年)。

初期の「宗教保守」運動の指導者の関心は、「対抗文化」に歯止めをかけて家族の価値を取り戻す宗教的使命にあり、選挙で特定の政党に貢献することを優先していなかった。

しかし、1988年に共和党の大統領選で予備選に出馬したパット・ロバートソン牧師が、翌年「キリスト教連合」を設立した。この団体は1994年中間選挙の共和党大勝を支えた。このロバートソン牧師の右腕だったのがラルフ・リードである。

 

リードは「フィールド・オブ・ドリームズ」戦略と名付け、草の根の動員教育ワークショップ運営や「投票ガイド」作成、投票勧誘電話作戦など地上戦に注力した。アメリカ労働総同盟・産業別組合会議に自らの運動をなぞらえ、民主党の動員システムを共和党に輸入する試みを成功させた。

「宗教を政治化し、政治を宗教化した元凶」ともされ、共和党内に敵も少なくない。ロビー活動をめぐる政治スキャンダルで一時失脚していた。

そのリードが、トランプの台頭で息を吹き返している。「信仰と自由の連合」は、2016年本選でトランプ支持のマシーンを買って出た。180万の会員を動かし、1000万ドルを投票勧誘活動に投入し、トランプに大いに貸しを作った。

トランプとリード2016年の大統領選挙戦中、トランプ大統領候補(当時)と談笑するラルフ・リード氏〔PHOTO〕gettyimages

カバノー判事を励ます会?

9月のアイオワでの集会に登壇したリードは、トランプの素晴らしさは「大統領選挙の段階で最高裁判事の望ましいリストを出した」ことにあると強調した。保守系の最高裁判事指名を指摘し、「約束が守られている」「こんな大統領は希有だ」と絶賛演説を行った。無論、ブッシュ息子への揶揄を含んでいる。

カーターのように任期中、最高裁判事指名の機会が巡ってこない大統領もいる中、トランプは就任してから既に2回も指名の機会を得ている。しかも、スカリア判事の急逝は2016年大統領選挙緒戦中、ケネディ判事の引退表明は2018年中間選挙年と、まるで宗教保守をつなぎ止める星の下に生まれてきたような展開だ。

アイオワでの会合でリードは、「プランド・ペアレントフッド」への助成停止、エルサレムへのアメリカ大使館移設、内国歳入庁の教会への圧力阻止、イラン核合意の破棄などを次々とトランプの通信簿に高得点をつけたが、この日一番の大喝采の起立拍手は在イスラエル米大使館への言及時だった。

州知事以下、勢揃いした連邦上院、下院の共和党議員も次々にトランプとカバノーを褒めちぎる。

ジョニ・アーンスト上院議員は、強い経済、減税、ペンス副大統領のタイブレーク票での「プランド・ペアレントフッド」助成封じ込めの3点でトランプ政権を賛美し、カバノー激励を促した。

アーンスト議員は、おもむろにスマートフォンを録画モードにして、観客席に向け、皆さんの声をワシントンのグラスリー上院議員に送ろうと言いだした。当日欠席したグラスリー上院議員は、カバノー判事公聴会を取仕切った上院司法委員長である。カバノー判事就任への尽力に皆で感謝しましょうというのだ。

「チャック、あなたへのメッセージです。神のご加護を!アイオワはあなたを愛しています。あなたは素晴らしいことをしてくれています!」

聴衆が総立ちで壇上のアーンストのスマートフォンのカメラに700人近くの群集が手を振る。

「メディア、世論調査、評論家、これらを無視すること」「私たちの大統領だけを見続けること」「カバノー判事のために祈りましょう!」とリードも叫ぶ。会場が恍惚状態で祈り始めた。

私を招待してくれた共和党幹部は中道で、夫人はモルモン教徒だが、彼自身はキリスト教保守ではない世俗派だ。そっと耳打ちしてくれた。

「カバノーで決まりだ。間違いない。もう性的暴行があったかどうかなんて関係ない。カバノーを守らない共和党議員は再選できない。この光景を見ろ」