なぜトランプをキリスト教保守は支持するのか? 奇妙な同盟の内幕

人工妊娠中絶とアメリカ政治
渡辺 将人 プロフィール

トランプに投票した「反トランプ」リバタリアン

アメリカの選挙では、予備選と本選の投票理由が異なることはよくある。予備選が足し算的な「好み」で選ばれやすいとすれば、本選は引き算的な「反対政党の候補者」への落選運動の色彩が入る。

つまり、「トランプに投票した人」は「トランプの熱心な支持者」とイコールではない。本選の投票は「積極的支持」を必ずしも意味しないからだ。「対抗馬を当選させたくない」「政策目標の達成」など意図は様々だ。世論調査では「投票理由」まで分類されていないことが多い。

棄権の背景と同じだ。投票が記述式ではないアメリカでは、「抗議の白票」は棄権で示す。投票率は「政治関心率」ではない。サンダース支持者が最後までヒラリーへの投票を渋ったように、「信念の有権者」ほど、本選では「党のため」の妥協を拒むことがある。棄権の理由まで調べないと抗議の矛先も見えない。

今回のアイオワ訪問では、中西部のティーパーティ運動を黎明期に立ち上げた保守系弁護士に久しぶりに会った。「自分や周囲の高学歴保守の有権者は、2016年予備選挙では反トランプで本選挙でも棄権予定だったが、悩んだ末に入れた」と言う。

「私たちはヒラリーだけは嫌だからトランプに入れただけ。トランプ支持ではない。あの女だけは大統領にしてはいけなかった」

本選の票分布でトランプ票が所得、学歴などで広範囲に及んでいるのは、彼らのような人が投票しているからだ。彼らは「トランパー」(Trumper:トランプの情熱的支持者)ではない。民主党候補が誰か次第で、共和党の候補に入れるかを決める。

「保護貿易には反対」「孤立外交なら、軍事同盟破棄、国連脱退すべきで生温い」「減税は評価するがインフラ投資はダメ」「オバマケア廃止が実現しないのは公約違反」と、次々と怒りをぶちまける。

トランプはリバタリアンを味方につけ続けることだけは困難だと理解している。「暫定支持連合」の屋台骨は、福音派キリスト教徒だ。

 

「道徳」よりも「政策」

もちろん、キリスト教保守も「トランパー」ではない。2016年予備選ではテッド・クルーズ上院議員、ベン・カーソン医師(現・住宅都市開発庁長官)らを支持していた。

だが福音派も約80%が2016年本選ではトランプに投票した。世論調査史上、福音派の獲得率として最も高い支持率だ。今年3月時点の福音派支持率も78%を維持している(ピューリサーチセンター)。

宗教保守は「道徳重視」集団のように見えて、「政策優先」集団だからだ。トランプや最高裁の判事候補に女性問題が露見しても、キリスト教保守の支持は揺るがない。「中絶合法を覆す」という執念があるからだ。

冒頭に述べたように、フェミニズム運動は即ち「中絶合法維持」運動であるアメリカでは、「Me Too」によるウーマンパワーは中絶擁護運動と曲解されがちで、宗教保守の反発をかえって刺激している。

ヒラリーは「プロチョイス」のシンボルとして標的にされた。「プロライフの女性」でないと保守票はついてこない。女性初の大統領は意外に共和党からのほうが出やすいと言われる所以である。 

共和党を制するための条件

キリスト教保守を制するものは共和党を制する。そしてアイオワを制するものはキリスト教保守を制する。

レーガン政権以降、雨の日も槍の日も最も忠実に動員が機能するのは宗教保守であり、大統領選挙の指名獲得競争で1番目のアイオワ州で存在感を示すのも彼らだ。

共和党アイオワ党員集会の勝者は、2008年は牧師でもあるマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事(トランプ政権のサラ・サンダース報道官の父親)、2012年はリック・サントラム元上院議員(ペンシルベニア州)、2016年はテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)であった。

キリスト教保守の動向を探るのに最適の州でもある。

白人比率が9割の州で深南部や都市部のように黒人をめぐる人種対立を抱えてないため、人種差別感情が政治意識に混ざらない。メキシコ国境からも遠く、日常ではヒスパニック系に特段の圧迫感も利益も感じていない。逆にここでの反移民感情は深刻で「本物」だ。

信仰に照らして、いかなる政治を望むか。それが他要因を限りなく排除した形で露見する。