有馬温泉の湯は600万年モノだった…目からウロコの「温泉の科学」

地震・火山大国の「癒し」のメカニズム
中島 淳一 プロフィール

化学分析でわかった「起源はフィリピン海」

有馬温泉の水を化学分析してみたところ、Liが多量に含まれ、Li/Cl 比は海水より数百倍高く、ヘリウムの同位体比(3He/4He)が大きいことがわかりました。

高いLi/Cl 比は、その水が沈み込む海洋プレート起源であること、高いヘリウムの同位体比は、その水が上部マントルを経由して上昇してきたことを示唆します。

つまり、有馬温泉の水は天水や海水を主成分とする地下水ではなく、沈み込むフィリピン海プレートに取り込まれた水(海水)に起源をもつと考えられます。

地下水とほとんど混ざらずに上昇してきた沈み込むプレート起源の水が、有馬温泉で湧出しているのです。

 

しかし、高温の温泉水の熱源についてはよくわかっていません。地下に新たにマグマが供給されているという考えもありますが、これまでのところマグマだまりをとらえた研究はありません。

有馬温泉で湧出している水は、約600万年前にフィリピン海プレート内に取り込まれた海水であるとされています。温泉は過去からの贈り物でもあるのです。

まだ人類が生まれていない古い時代の海水が温泉の起源となっていると考えると、不思議な感じがしませんか? 温泉に入ってリラックスしながら、温泉の起源に思いを巡らせてみて下さい。地球の悠久の営みを身近なところで感じられると思います。

有馬温泉(1880年)19世紀末の有馬温泉の様子。ここに湧き出ていた温泉水にも600万年の歴史が… Photo by Getty Images

沈み込み帯に生まれた日本列島

ユーラシア大陸の縁辺で日本列島の土台ができ始めてから1億年以上、日本列島がほぼ現在の形になってから1500万年以上の歳月が流れています。

その間、日本列島の下にはプレートが沈み込み、激しい火山活動や大地震による地殻変動を幾度となくもたらしてきました。

地震や火山噴火による災害はプレートの沈み込みがもたらす「負の側面」ですが、プレートの沈み込みは、私たちに多くの恵みをもたらしてくれます。

火山性温泉もその一つです。ほかにも、風光明媚な起伏に富んだ地形や豊富な地下水、豊かな水産資源もプレートの沈み込みの恩恵といえます。

日本列島はこの先も、プレート沈み込みによる変動を受け続けるでしょう。数十万年後の私たちの子孫も、温かい温泉につかって、地元のおいしい料理に舌鼓をうっているでしょうか? 現在の地球では、環境破壊や水産資源・化石燃料の枯渇、温暖化などが喫緊の課題となっています。

この先何十世代にもわたり温泉でのひとときを楽しめるよう、地球という希有な「水の惑星」を大切にしていくことが、私たちの使命でもあります。

  『日本列島の下では何が起きているのか 列島誕生から地震・火山噴火のメカニズムまで』
中島淳一 著 講談社ブルーバックス
地震学界のトップランナーが、現代地球科学の基礎となるプレートテクトニクス、日本列島の成り立ち、地球内部の水が関わる沈み込み帯の地震・火山活動のメカニズムを徹底的に解説する!