ソフトバンク、トヨタ、武田…高まる企業の「ベンチャー投資」リスク

「ユニコーン」と「天使」の危うい関係
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

ベンチャー投資の情報リスク

ベンチャー投資の大きなリスクは、公開企業と違って情報開示が限定的なことだ。1兆円の「ユニコーン」がまぼろしに消えた事例もある。

プリンストン大学を中退したエリザベス・ホームズが19歳で創立した「セラノス」は、指先に針を刺すだけの手軽な方法で200種類もの血液検査が出来る技術を確立したと謳い、VCラウンドで90億ドルを募ることに成功した。日本円でおよそ1兆円という大型「ユニコーン」の誕生だった。

エリザベス・ホームズ氏 Photo by GettyImages

金髪に透き通るような青い目、スティーブ・ジョッブスを意識した黒のタートルネック姿。どこかあどけなさが残る容姿とのギャップが激しい野太い声には、落ち着きとカリスマ性がある。ホームズは、自分の叔父を癌で亡くしたことをきっかけに、病気の早期発見で多くの人を救いたいと願って起業したのだ、とメディアで訴えた。

セラノスの「エンジェル」及び社外取締役リストが、これまた豪華だった。ジョージ・シュルツ、ヘンリー・キッシンジャー両元国務長官、現政権のジェームズ・マティス国防長官、ルパード・マードック氏らがキラ星のように並んでいた。

ところが2015年10月、ウォール・ストリートジャーナル紙が、内部告発者の証言に基づいてセラノスの嘘を暴露した。実際にはこのベンチャーが開発したと謳った血液検査方法や機器は、精度や信頼性の点で全く使い物にならなかったのだ。

この若き女性創業者は、初めは純粋に世のためになることを目指したのかもしれない。しかし、彼女の嘘はどんどん大きくなる。自社製品が機能しなかったので、よその大手メーカーの機器を導入して血液試験をしていたのに、それを自社のものだと偽って患者への検査を続け、投資家からも資金調達を行ったのだ。 

今年6月、米証券取引委員会(SEC)の民事訴訟(その後和解)に続いて、連邦検察当局がホームズと彼女の愛人だったとされる元社長を刑事告発した。セラノスはこの9月、企業解散となった。

セラノスは資金調達をするのに基本的な財務データさえ開示していなかったと言われる。投資家たちは「あの立派な人が後押しするなら、信頼できるんだろう」という典型的な「フレーミング効果」(メディアや支配的な人の見方を含む、情報のもたらされる「枠」に影響されること)に流されてしまったようだ。あるいは、多くの人を助けたいと訴えるホームズに、情に絆されて投資してしまったのだろうか。

その後、ホームズが癌で亡くなった叔父とは疎遠だったことまで報じられた。

 

「感情的なエンジェル」は狙われる

今の時代は、普通の個人でも「エンジェル」になれる。

欧米での規制緩和に続いて、日本でも金融商品取引法が改正され、2015年からインターネットのクラウドファンディング投資で募集総額1億円未満、1人50万円以下なら個人でもベンチャー投資ができるようになった。

こうした動きは多くのスタートアップ企業に多様な資金調達の道を開く。一方で、公開企業と違って開示が不透明で、投資家保護が不十分なケースも散見される。

すでに、数々の怪しげな商品の掲載や投資資金の流用や持ち逃げ、クラウドファンディングサイトの運営者自体による詐欺など、世界中であきれるような内容の「クラウド詐欺」が多く発生している。

発案者が誰か、信頼出来る審査を経ているか、事業の実現性やクラウドファンディングサイト運営者の実績などをじっくり見極めよう。実態が確認できるものでなければ、心に訴える謳い文句であっても安易に飛びつくべきではない。詐欺師はまさしく「感情的なエンジェル」を狙ってくるのだから。