46億年気候大変動のからくり

古気候復元と物理シミュレーションで謎を解き明かす
大河内 直彦 プロフィール

気候変動研究者に求められる資質とは

そんな過去の気候変動を知るうえで不可欠な要素は多い。氷床コアや海の堆積物を手に入れるための探検家精神、自然を見る鋭い観察眼、詳細かつ高度な分析技術、精緻なコンピューター・シミュレーションを実行する力、そんな結果を膨らます豊かな想像力などなど。そこには、1人の研究者の手にあり余るリストがずらりと並ぶことになる。

この事実を裏から眺めると、個々の研究者が自らの専門分野を語っただけでは、気候変動は語り尽くせないことになる。科学成果を広く見渡せる知識と、それを過不足なく1本のストーリーとしてつなぎ合わせるバランス感覚を備えてはじめて気候変動を語ることができる。
 
そんな難事業に最近、どうやらアウトリーチという新たな項目がさらに付け加わったようだ。科学の知識を一般の人々に伝えることも科学者の重要な責務というわけである。科学の成果としての科学論文には、著者のパーソナリティはかすかに滲み出る程度のものでしかない。

しかしアウトリーチとは客観的な知識の伝達より、研究者の人生観や世界観を前面に押し出したものが好まれる。つまり喜怒哀楽のともなう人間としての行いという一面をハイライトした研究成果の見せ方である。報道する側の視点として、人間味の利いたドラマなどの呼び水が必要ということなのだろう。

必然的にアウトリーチの時々に応じて、科学者はギヤを入れ替える必要がある。

そもそも情報の出し手である自然科学の研究者は厳密さを求め、情緒的なものは最大限排除するものだ。それに対して情報の受け手である一般の人々と、その間をつなぐマスコミの多くはセンセーショナルなものを求めがちだ。両者の間に横たわる深い溝を埋める作業が必要なのである。

聞こえが良ければ、多少の不正確さもあわせ呑むくらいの度胸も必要ということなのだろうか。悩ましいところである。複雑な話を、気の利いたフレーズや簡単な図で表現することは至難の業で、「……には関係があると考えられる」という冒頭に引いたような歯切れの悪いコメントを随所に見かける。私を含め、アウトリーチにいまだ手探りで右往左往している科学者は多いのだ。

21世紀の科学者は、まだ解けぬ問題をねじ伏せるべく手綱をさらに引き締めると同時に、研究で成し遂げた成果を社会に還元する術を磨いていかねばならない。しかし長い目で見れば、心配はご無用だろう。科学者の(驚くほど)共通した特徴に、「楽観的」という一面があるからだ。そしてさらに重要なことに、新しい感覚を身につけた新しい世代が常に現れ続けているからだ。

大河内 直彦 氏プロフィール
1966年、京都市生まれ。国立研究開発法人海洋研究開発機構 生物地球化学研究分野・分野長。天然中に分布する有機化合物とその同位体組成から、現在の地球環境や過去に起きた環境変動における生物の役割の解明を行っている。

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地球46億年気候大変動
炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来

横山 祐典 著

最先端研究でわかった気候変動を支配する「地球のからくり」
隕石が絶え間なく降り注ぐマグマオーシャンの時代から
全球凍結したスノボールアース、恐竜が繁栄した超温暖化時代、
そして氷期、間氷期を繰り返す、直近の260万年にいたるまで
地球の気候は激しく変動してきた。
一見すると無秩序に激しく変動しているように見えるが、
その変化には一定のリズムや規則性があることがわかってきた。
鍵を握るのが、地球の公転軌道の変化がもたらす「ペースメーカー」と
地球の表層における「炭素循環」だった!

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