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カイチュウ博士のお腹の中から「サナダムシ」が絶滅! 次は人類?

私たちが絶滅する理由、そしてその後
お腹の中に何世代もサナダムシを飼っていることで有名な「カイチュウ博士」こと藤田紘一郎氏。ところが、この6代にわたって居座っていたサナダムシ、実はもういなくなってしまったのだという。なぜか──。
氏の新刊『残念な「オス」という生き物』(フォレスト2545新書)より、寄生虫を絶滅させた人類もやがて絶滅に向かうかもしれない、その議論を紹介する。

こうしてサナダムシは絶滅した

今、多くの地球上の生物が絶滅の危機に瀕していますが、それは動物・植物に限ったことではありません。

私は日本海裂頭条虫というサナダムシを、6代にわたり15年間も自分のお腹の中に飼っていました。初代のサトミちゃんから始まり、6代目のホマレちゃんまで私のお腹に宿していましたが、残念ながら今はいません。

どうしてかというと、日本ではサナダムシの幼虫が手に入らなくなったからです。

現在、日本のサナダムシは絶滅状態にあるのです。

お腹の中で成長したサナダムシは、一回に200万個近い数の卵をヒトの腸管内に排出します。しかし、私が日本のトイレで排便する限り、サナダムシの感染サイクルは成立しません。私のウンコは下水処理場で処理されるため、サナダムシの卵が川に流れないのです。

私が学生時代から馴染じみ深い川として神田川があります。仮に、私がこの神田川で排便したとすると、サナダムシの卵は孵化してミジンコの中に侵入します。サナダムシの幼虫は、ミジンコの体内に入ることで成長するのです。

仮に私が神田川で排便して、ミジンコがそれを食べたと仮定しても、現在の日本ではふたたびここで感染サイクルは止まります。サナダムシの幼虫が入ったミジンコをさらに鮭が食べないと、幼虫は感染幼虫まで発育しないからです。

つまり、サナダムシの感染幼虫をつくるためには、お腹にサナダムシを飼っている人が、鮭の棲んでいる川まで行って直接排便しなければならないのです。

そうしてサナダムシの幼虫がミジンコに入り、そのミジンコを鮭が食べて鮭の身の中に感染幼虫ができ、その鮭の身を生で人間が食べることによって、やっと感染サイクルが成立するというわけです。

日本ではもう30年近くも前から、川には人の糞便が流れないように整備されています。こうして日本のサナダムシの感染サイクルはまったく回らなくなって、サナダムシは絶滅状態となったのです。

回虫カイチュウ(回虫)のライフサイクルIllustration by Getty Images

『レッドデータブック』に寄生虫の名を

私は寄生虫のすべてが、生物にとって有害だとは思っていません。

花粉症は50年くらい前にはほとんど見られませんでしたが、それはお腹の中に寄生虫がいたおかげかもしれません。

なぜなら、寄生虫がつくる抗体が宿主を守っていると考えられるからです。寄生虫駆除が行き渡った頃から、花粉症を発症する人が激増したのです。

他にも、巻き貝では寄生虫が他の寄生虫を捕食して役に立っている例もあります。

寄生虫の絶滅は、動物の絶滅とも非常に深く関係しています。