元経済ヤクザが読み解く「米中新冷戦」の本当の恐ろしさ

アウトローだからこそ分かることがある
猫組長

横行する暗殺

対する中国側だが、中国共産党は対米姿勢において一枚岩とは言えない状態になっている。その好例の一つが、貿易戦争開戦前日の7月3日に中国の大手航空会社・海南航空集団の会長である王健氏が、出張先のフランスで死亡した一件だ。

王氏は南仏プロバンス地方のボニュー村の教会で記念写真を撮ろうとして、15メートルの壁に登り転落死する。海南航空集団は航空事業に留まらずM&Aによって急成長を遂げた企業で、ヒルトンホテルを国際展開するヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスの筆頭株主だった。また、中国と深い関係にあるドイツのドイツ銀行も手中に収めていた。

現地警察は事故死としたが、裏社会に生きる者なら、誰もそれを素直には受け止めていない。海南航空集団には国家主席である習近平氏(65)の「右腕」とされる国家副主席の王岐山氏(70)の関与の噂が絶えない。この後ろ盾によって急成長を遂げたとされている。

そして王健氏は反王岐山派の筆頭。繰り返されたM&Aによって海南航空集団の債務も膨張して、17年には中国政府から債務圧縮を求められ資金繰りが悪化。今年に入って大量の資産売却を打ち出していた矢先に王健氏が“事故死”し、王岐山派が会社のトップになった。

転落死が暗殺とされるのはこのような背景があるからだ。

 

そして私の元にはまったく別の「暗殺劇」が知らされることとなった。それは、中国三大国有石油会社の一つシノペック・グループ(中国石油化工集団)内で起こった。03年頃、中国は国家戦略として石油備蓄量を大幅に拡大させることを発表。それに伴って、私も石油ビジネスへと参入した。その取引先の一つがシノペックの子会社だったのだ。

ちょうど王健氏がフランスで“事故死”した直後のこと。シノペックの子会社のスタッフで今でも交友がある人物が私に焦燥しながらこう相談してきたのだ。

「怖くて中国に帰れないからマレーシアに亡命したい。助けてくれませんか?」

理由を尋ねると、シノペックの幹部などが連れ立ってやはりフランスに出張に行った時、1人が事故死して、2人が行方不明となったとのことだった。日本でも海外でもニュースになっていないが、その人物はこう明かしてくれた。

「海南航空集団の事件とは別で、こちらは習近平派と反習近平派の争いが原因なのです」

1978年に当時の国家主席だった鄧小平氏が「改革・開放」をスローガンに掲げて以降、米中はいわば互恵の関係を続けてきた。表舞台から消えたとはいえ、鄧小平路線と集団指導体制で中国共産党を運営してきたかつての指導者、江沢民氏(92)、胡錦涛氏(75)、さらに温家宝氏(76)はまだ存命である。

その胡錦涛時代の10年間(2002~2010)で、中国のGDPは4倍になり、世界第2位の経済大国へと変貌を遂げる。同時にアメリカの対中貿易額は5倍に拡大。アメリカは中国との関係を戦略的パートナー、「G2」、互恵関係と呼んでいた。

「米中の蜜月関係こそ中国発展の原動力」と考えてきた江沢民氏を最古参とする旧支配層にとって、アメリカとの摩擦拡大は習近平氏を引きずり降ろす十分な動機となる。

戦争を含む経済活動で要となる「石油」は国家の戦略物資。それを扱う巨大企業・シノペック内の暗殺劇は、米中貿易戦争をきっかけにした、中国共産党内の権力闘争の激しさを伝えていると私は考えている。