丸山ゴンザレス×ハロルド作石「ニューヨークと裏社会」を語る

意外な共通点が見えてきた
丸山 ゴンザレス プロフィール

人間は「矛盾の生き物」

丸山 ハロルド先生が、これまでの作品の中で通底して描こうとしているテーマとは何ですか。

作石 作品によって異なりますが、『7人のシェイクスピア』に関しては、矛盾の中で生きていく人間性を描きたいと思っています。その中で、無名の人間がのし上がっていく高揚感だとか、いろんな要素をちりばめていますが、究極的には「人間の矛盾」ですね。

丸山 シェイクスピアが抱えている矛盾とは?

作石 芝居で成功したい、頂点を極めたいという強烈な野心があるのに、決して作家として才能があるわけではない。けれども、プロデュース能力が優れている。それが第一の矛盾です。また、クリストファー・マーロウというライバルの劇作家がいて、彼も人気があるのに、その反面、宗教改革下の政府のスパイとして、カトリック教徒を暗殺している。

人々を喜ばせる物語を作りながら、殺人鬼でもあるという。ここにも矛盾がありますね。登場人物ひとりひとりに矛盾があって、その矛盾によって物語が深みのあるものになっていく……。だから、いまはその矛盾を描きたいなと。

 

丸山 なるほど。僕も取材の中で、人間の矛盾はよく感じます。人間は結局、矛盾を抱えた生き物ですよね。例えば、真っ当に生きたいと語るドラッグディーラーがいたんですが、彼はヘロイン中毒者で、周囲が入院を勧める中、「なんのために生きるのか。稼ぐためだろう」と言うんです。

「俺は、ヘロインをやるために生きるから、そのための金が入ればいいんだ」と。それ自体は矛盾ではないけれど、引いてみると、大いなる矛盾の中に存在している。矛盾であることが当たり前なんだと思いました。逆に、整合性がある人ほど嘘をついている可能性が高いですね。

作石 その話、もっと詳しく聞かせてください

丸山 メキシコ麻薬戦争の取材で強く感じたのですが、いろんな自警団がある中で、ひとつ、理想を掲げて自分たちこそ正義だという自警団があったんですね。彼らの言うことにまったく矛盾がない。そこで、かえって疑問が湧いたんです。なぜこんなに立派な自警団があるのに、この街では麻薬取引が横行しているのか。俺はその自警団が、裏では麻薬組織とつながりがあるんじゃないかと思ったんです。いわば、マッチポンプのようなことをしているんじゃないかと。

思い切ってそのことを彼らに尋ねると、「もし我々が麻薬カルテルと繋がりあるなら、金があって最新の武器を持っているはずだ。でも、ここにある銃はボロボロだろう」という。なるほどと納得していると、若手の団員が何かを抱えてリーダーの元に走り寄ってきて、俺たちの目の前で、冗談みたいにコケたんです。足元に最新型の銃が散らばって、そこにいた自警団幹部の顔がこわばるという(笑)。

やっぱり麻薬組織とつながっていたんでしょうね。そこでオチがつきました。

作石 メキシコ麻薬戦争は面白かったです。麻薬組織と自警団の銃撃戦があった場所の売店のお姉さんに話を聞いてましたよね。それで、丸山さんが麻薬カルテルが銃撃戦の原因か聞くと、少し困った感じで、「どっちのカルテル?」と答えた。要は、自警団も麻薬組織と同じようなもんじゃないかと住民は思っている。あれは、それまで番組を観ていた人の価値観が一転する瞬間でした。

丸山 あれも偶然に取材した人が発した言葉で、あの一言を聞いた瞬間に鳥肌が立ちました。まるで脚本があるような展開だったので。

作石 でも、それまでにも、丸山さんは矛盾を感じていたんですね。

丸山 取材の前段階から、自警団とカルテルの線引きはとても難しく、いわばグレーゾーンだということは知っていましたが、実際に現地に行くと、思っていた以上に全ての組織がぐちゃぐちゃで。

それにしても、先生はやっぱり言葉に引っかかるんですね。『7人のシェイクスピア』でも『BECK』の中でも詩や歌詞が登場し、作品に重要な意味を付与します。それがまるで神の御技のように描かれていますが、先生ご自身も何かに引っ張られるようなことは感じますか?

作石 そうですね。物語を作るというのは、知識だけで作るものじゃないとは感じますね。『BECK』については、曲自体はマンガで描けないし、あまり僕の趣味を押し付けるのもどうなんだろうと思っていたので、想像の余白を残しています。

丸山 その一方で、『BECK』では舞台となる釣り堀や、ナポリスミスが誕生する喫茶店など、あそこがモデルなのではと思わせるような具体的な描写もありますよね。千葉が「レクサスに乗りたい」と言っていたり。

作石 釣り堀は、『BECK』に取り掛かる前に、釣り堀のマンガを書こうと思って、資料写真をたくさん撮っていたんですね。それをそのまま使って。レクサスはカニエ・ウェストの「ジーザス・ウォーク」の歌詞に登場したので、若者は今、レクサスに憧れてるんだなと思って、そのまま使ったんです(笑)。