丸山ゴンザレス×ハロルド作石「ニューヨークと裏社会」を語る

意外な共通点が見えてきた
丸山 ゴンザレス プロフィール

「知りたい」というシンプルな理由

丸山 ハロルド先生は『クレイジージャーニー』をよくご覧になるんですか?

作石 全部ではないですけど、結構観てます。フィリピンの銃密造村なんかも強烈でした。あんな場所、なかなか潜入できませんよ。あれはどうやって見つけたんですか?

丸山 裏社会取材をしている先輩たちと飲みに行ったときに「フィリピンは拳銃の密造をあちこちでやってる」と聞いていたんです。でも、調べたら古い情報ばかりで、いまどうなっているかがわからない。周りに聞いてもよく分からないので、とりあえず現地に乗り込んでみたんです。現地の人の紹介に次ぐ紹介でやっと辿り着いたのが、セブ島の中心からバスで1時間、そこからさらに山奥という場所でした。

作石 あれこそ死と隣り合わせですよね。

 

丸山 かなり緊張しましたね。行ってみてわかったのは、なぜ古い情報しかなかったのか、その理由です。かつて日本の裏社会が密造銃を発注していたけれど、今はそれがなくなり、買取先がフィリピンのミンダナオ島で内戦を引き起こしたテロ組織、になっていたんです。

だから、日本には情報が流れてこなくなってしまった。

作石 すごい話ですね……それにしても、全く情報がないところに、突っ込めるモチベーションは何ですか?

丸山 意図的に「知りたい」というシンプルな動機。それがすべてです。一人で取材をしていると、止めるか続けるかは自分次第なので、嫌になったら自分の中でいくつも取材を止める理由を作ってしまう。だから、心が折れそうになると「知りたくないのか? この先を見たくないのか?」と、自分に問いかけるようにしています。

作石 丸山さんって、どこへ行っても受け入れられて、現地の人に気に入られるタイプですよね。

丸山 それはいくつか要素があって、まずはヤク中じゃないことが重要。ちゃんと話が通じることが大事なんです(笑)。それから、相手に腹を見せること。何を考えているのかが相手にわかるように、感情は極力オープンにします。それから、俺はどんな人種にも見えるらしく、ルーツがはっきりしないことで、話を聞いてくれることもあります。ゴンザレスと名乗るとメキシコ人かサモアの移民か、南太平洋の出身だと思われることもあります。

作石 やっぱり海外ではゴンザレスと名乗るんですね(笑)。丸山さんは、取材先でなんでも食べるじゃないですか。ケニアでは、なんだか腐っているような牛の脚とかも食べていた。あれはすごい。どう考えても無理ですよ。

丸山 あれは、口に運ぶ間にすでに腐敗臭がしていて(笑)。腐ってるとわかっていても、現地の人が食べているなら食べないという選択肢はない。でも、その後、嘔吐と下痢が止まりませんでした。

作石 それはヤバい!(笑)

丸山 下痢はよくあるので、あまり気にしませんね。胃薬を飲んで、あとは抵抗せずに全部出せば半日くらいで回復します。

作石 そんなもんですか(笑)。以前、番組で、都市が発展するときは必ず歪みが生まれるとおっしゃっていましたよね。表向きには見栄えがいいものの裏には、必ず歪みがあると。ああいう料理も、その歪みなのかもしれませんね。

丸山 『7人のシェイクスピア』の中でも、中世イギリスの貧困が描かれていますが、あれもその歪みですよね。イギリスという国が発展していく中で、やはり貧困地帯というものが生まれる。これは、どの時代だろうと都市だろうと、必ず生まれるんです。フィリピンだろうと、ニューヨークだろうと。

ニューヨークで、チップのいらないカウンターだけの店をまわると移民だらけなんですよ。タクシー運転手、コンビニの清掃、ゴミ拾いで生計を立ててるホームレスや地下住人。世界一の大都市が誰に支えられているのか。そう思うと彼らも都市の歪みの一部だなと。そこで彼らに色々話を聞きました。

作石 そういう場所には、躊躇なく飛び込めるんですか?

丸山 人に話を聞かないと、報道されない部分が見えてこないので、やるしかないかと。あとは、取材前に仮説を立てるんです。仮説を立てると、それを検証するために飛び込まなければなりませんから(笑)。その意味では想像力がとても大事で……。でも、やはり漫画家の方々の想像力にはかないません。

『7人のシェイクスピア』では、バーや食堂の描き方も、当時の劇場の様子もとてもリアル。一部は資料もあると思うんですが、でもおそらく大部分は想像だと思うんです。その想像力は本当にすごいなと感服するばかりです。

作石 あの時代、あの環境で人間が生きていたら、きっとこういうものが存在するだろうな……という妄想を膨らませていますね。人間のやることは、公的な文書に残されているものだけじゃない。もっとフランクだと思うんですよ。現代にあるものから、過去に換算していくと、きっと、こうなるだろうと。確かに、漫画を描く仕事のなかで、そういう想像をしている時が一番楽しいかもしれませんね。

丸山 数行の年代記から、想像を膨らませるのがすごいですよね。でも、シェイクスピアの研究者はたくさんいるわけですよね。あえてシェイクスピアを取り上げて、しかも大胆な仮説を立てて、それを漫画化するのは、結構ハードルが高かったのではないでしょうか。

作石 そうですね。でも研究者が多くいたおかげでこの漫画ができた、というところもあります。頭の中で自由にキャラクターが動くまでは、とにかく文献を調べたり大学の先生に話を聞いたり、が必要になりますので。

たとえば、当時の警察はどういう組織で、犯罪を起こすとどうなるのか……といった社会の仕組みや、当時の食事、風習、風俗などを教えてもらうと、キャラクターが何時に起きて、仕事や生活はどうしているのか、頭の中で自由に動くようになります。そうなるまでには時間がかかりますけど。せっかくフィクションを書くのだから、専門家の方々に「そう来たか」と驚いてもらえるような作品にしたいと思っています。