丸山ゴンザレス×ハロルド作石「ニューヨークと裏社会」を語る

意外な共通点が見えてきた
丸山 ゴンザレス プロフィール

妄想という宇宙

作石 そもそも、ニューヨークの地下に人が暮らしているなんて、普通は知りませんよね?取材対象はどうやって見つけるんですか?

丸山 ニューヨークの地下住民は1997年に『もぐらびと ニューヨークの地下生活者たち』という本がありまして。椎名誠さんの娘さんの渡辺葉さんが翻訳しているものなんですが、ある時、それを思い出して、今あのあたりはどうなっているのか調べたら、アーバン・エクスプロレーションのムーブメントに乗っかって、追っているヤツを見つけたんです。

ラスベカスの地下は、大学生のとき見かけたCNNのニュースを思い出して、改めて調べ直しました。他にもニュースでたまたま見かけたり、外国の新聞に数行だけ書いてある記事をみつけて、現地の友人知人に情報を投げてみたり。それでもわからないことがあると、「インスピレーションが俺に行けと言ってる」と思い込んで、現地に乗り込みます。

インスピレーションといえば、先生の最新作『7人のシェイクスピア』でもインスピレーションを大事にしているシーンが出てきますよね。シェイクスピアが新しい劇の着想を得るシーンは、インスピレーションの連続です。

そもそも、先生がなぜシェイクスピアを主人公にした漫画を描いているのか。そのインスピレーションというか、この作品自体、いったいどこから着想を得たんですか?

作石 最初は、演劇好きの友人から話を聞いて、シェイクスピアって面白いなと思ったんです。作品はもちろんですが、彼のその数奇でミステリアスな生涯に惹かれました。ちょうど『BECK』が終わったばかりで時間があったので、いろんな人の伝記を読んでいたら、そこにシェイクスピアのものもあって。

世界的文豪の人生には、一切の記録なき“失われた時代〈ザ・ロスト・イヤーズ〉”がある。田舎に住む浅学菲才の若者から、世界の都を揺るがす劇作家/詩人へ。変貌はいかにして遂げられたのか? 史上最高の天才劇作家にまつわる史上最大の謎に、ハロルド作石が挑む!!!

『7人のシェイクスピア』は、シェイクスピアは実は一人じゃなかった……という設定ですが、評伝などを呼んでいると、本当に実在したのか、その存在そのものがベールに包まれていて、気になって気になって仕方がなくなった。そこから、自然に妄想を膨らませていきました。彼の作品には鳥類学から薬草、法律など、その道のエキスパートが書くような本が何冊もあるんです。

もし一人の人間がこのすべてを書いていたとしたら、ありえないくらいの超人なんですよ。だから、「シェイクスピア」という人物を複数人が分業にしていたら面白いな、と。漫画家は基本、妄想力ですよ。

(※『7人のシェイクスピア』第一話無料試し読みはこちらから→https://comic-days.com/episode/13932016480029380178

丸山 登場人物の一人に、中国人移民の女の子、リーが出てきますよね。彼女が英語を覚えて、詩を読み上げていくと、その詩でインスピレーションを得たシェイクスピアが、今度は演劇の台本を書き上げていく。あのシーンは『BECK』でコユキが初めて歌ったときのあの衝撃に通じるものがあって、とても刺激的でした。

作石 シェイクスピアが作った造語って、実は膨大にあるんです。造語って、なかなか作ろうと思っても作れない。もしかしたら、外国人がシェイクスピアにアイデアを与えたんじゃないかな、と思ったんですね。

また、シェイクスピアの作る詩は、時に文法を完全に無視したものある。これもネイティブなら気持ち悪くて作れないはずなので、「シェイクスピア」のひとりが外国人だったら面白いなと。

丸山 僕も『鳥居准教授の空腹 ~世界のスラムにうまいものあり~』(幻冬舎コミックス)という漫画の原作を手がけているんですが、スラム街での体験を基にしつつも、現実とフィクションのライン引きが難しくて。だからますます、ハロルド先生が作り上げる、妄想という名の宇宙の凄さを実感します。