酒井順子氏と、仮面をつけて対談に臨んだこだま氏

セックスにも家族の形にも、正解はない〜女二人『夫のちんぽ』を語る

「入らない」苦しみを乗り越えて

昨年発売された私小説『夫のちんぽが入らない』が13万部のベストセラーとなり大反響を呼んだ、こだま氏。第2作となる『ここは、おしまいの地』で第34回講談社エッセイ賞を受賞した。同賞の選考委員を務める酒井順子氏とこだま氏が「ちんぽ」を真面目に語り尽くした対談をお届けする。

Kodama
主婦。2017年、実話を元にした私小説『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)がベストセラーに。2作目のエッセイ『ここは、おしまいの地』(太田出版)で第34回講談社エッセイ賞を受賞した
Sakai Junko
1966年東京都生まれ。エッセイスト。『負け犬の遠吠え』(講談社)で婦人公論文芸賞と講談社エッセイ賞を受賞。近著に『百年の女 「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』(中央公論新社)

「ちんぽ」という言葉から、純文学の香りがする

酒井: この度は講談社エッセイ賞ご受賞おめでとうございます。

こだま: ありがとうございます。選んでいただいて、光栄です。

酒井: 私は、今回受賞された『ここは、おしまいの地』で初めてこだまさんの本を拝読したのですが、とにかく文章が上手で、ベテランの書き手のような手練れ感と貫禄を感じました。しかし、今日(対談当日)はハレの授賞式だというのに、仮面をつけなきゃいけないんですね。

授賞式に仮面で登場

こだま: 堂々と誇りたい賞なのに、こっそりと来てしまいました。2作目はまだしも、本名や顔を明かして、デビュー作の『夫のちんぽが入らない』(以下『夫のちんぽ』)はとても書けなかったです。

酒井: その〝ちんぽ〟の主である旦那さんには今も内緒なんですよね?

こだま: 夫に限らず、家族や地元の数少ない知人にも、私が本を出していることは伝えていません。今日も、東京の友達の家に行くと言って出てきました。

酒井: 嘘に嘘を重ねて……。それほどまでに、夫バレしないよう細心の注意を払っているのは、『夫のちんぽ』があまりにも赤裸々に、夫婦が抱える性の問題を綴っていたからでしょうね。

私はまず、こだまさんが「ちんぽ」という言葉を使ったことに、純文学の香りを感じました。いくら下ネタ好きな私でも、百歩譲って、せいぜい「ちんちん」なんですよ。これに「お」をつけて、『夫のおちんちんが入らない』になると、もうAVですからね。書き手としては非常にシビアなラインかと思います。

こだま: 実はすでにAVでパロディーにされたようなんです。

酒井: なんと。やっぱりAVは流行に敏感ですね。でも今回、こだまさんが「ちんぽ」という言葉を選択された理由を文庫版の巻末エッセイで読んで、すごくスッキリしました。

 

こだま: 「男性器」では重すぎるし、「ちんちん」や「ちんこ」だと軽すぎて、片仮名の「チンポ」じゃ冷たい。そうして辿り着いた「ちんぽ」でした。

酒井: 『夫のちんぽ』以前は、男性器のことを何と呼んでいたのですか?

こだま: 私は普段はとても「ちんぽ」とは呼べませんし、そもそも「ちんぽ」が指し示すモノを呼ぶことがありませんでした。

酒井: 無から「ちんぽ」へ。大きく飛躍しましたね。

こだま: 最初は、同人誌にだけ特別に書いたんですが、タイトルに「ちんぽ」を挿れてしまえば、あとは恥ずかしさもなく書けるだろう、という勢い付け的な目論見もありました。なにせ「ちんぽ」ですから。

酒井: 納得です。やっぱり、「ちんぽ」って相当、大胆な言葉だと思うんですよ。これを1作目で書けるなんて凄いなというか、きっと猛々しい人なんだろうなと思っていたら、とても清楚な女性で驚きました。今も基本的に下ネタは苦手ですか?

こだま: はい、『夫のちんぽ』を出したことによって、「ちんぽ」と言わずにはいられない状況になってしまいましたが、いまだに自分からは言えません。