水陸両用、原発で作業もできる「ヘビ型ロボット」はこうして生まれた

広瀬茂男氏、研究者としての原点を語る
東京工業大学 プロフィール

数え切れないほどの失敗を経験しているが挫折は一度もない

それにしても次々に独自のアイデアを生み出す広瀬の源泉は一体どこにあるのだろうか。この質問に対して広瀬は淡々とこう答える。

「私の場合、運慶の話と同じで、湧いたイメージをそのまま形にしているという感じですね。逆にイメージが湧く瞬間がロボット研究の中で一番楽しいときなんです」

夏目漱石は小説「夢十夜」の中で、鎌倉時代に活躍した天才仏師の運慶について、こう記述している。それは、運慶が仁王像を彫っている姿を見ている主人公に対して隣の男が、「運慶は単に木の中に埋まっている仁王を掘り出しているだけだ」と教えたというものだ。

とはいえ、そんな広瀬でも最初に浮かんだイメージ通りのロボットが出来上がるということは稀だという。

「ロボットはシステムであるため、1つでも機能しない部分があれば完成しません。ほんの少しの修正のために、一から作り直すことも日常茶飯事です。それゆえ、失敗は数知れず。しかしながら、挫折をしたことは一度もありませんね。それは失敗したとき、ではどうすれば成功するのかというしか考えないからだと思います」 と広瀬。

そして、この姿勢こそが新たな道を切り開いていくのだ。

広瀬茂男研究室のロボット
  一度完成したロボットでも、絶えず改良を繰り返している。そのため、10年以上にわたり開発を続けているロボットも少なくない。そんなロボットたちが研究室にはところ狭しと並べられている

「また、私は確かに最初ヘビやクモをモチーフにしてロボット開発を始めましたが、逆に、インスピレーションを受ける対象にはこだわってはいけないと考えています。何からインスピレーションを受けたかはどうでも良いことだからです。

重要なのは、何のためにロボットを開発するのかという目的です。そのため、私の研究室にくる学生たちには、ロボット研究を通じて何を実現させたいのかを深く考えさせ、その方向性と目標を与えるようにしています」

たとえば、中にはアイロンをかけることができるロボットを開発している研究者もいるが、人が衣類にアイロンをかけるのはシワを伸ばすためだ。それならば形状記憶繊維のように、アイロンが不要な生地を開発した方がスマートだというのが広瀬の考え方だ。

そのため、単に人がやっていたことをロボットにやらせようという考えには手放しで賛成はできないと広瀬は言う。

子供から院生まで幅広い世代の後進の育成にも尽力

さて、ロボットの研究者になるにはどのような能力が必要なのだろうか。それに対し広瀬はこう答える。

「数学や物理学など理論的な知識はもちろんのこと、子供の頃から工作などものつくりをやっていることが重要だと思っています。最大の理由は立体的に形と動きがイメージできるセンスが養えるからです。

ところが、学生とイメージを共有しようと思っても中々共有できず、歯がゆい思いをすることがよくあります。挙げ句の果てには、『先生、数式を使って考えましょうよ』なんて言われてしまうんです」

広瀬自身、子供の頃は外で遊ぶよりも家に閉じこもって工作をして遊ぶことの方が好きな少年だった。時計の分解はもちろんのこと、ラジオなども手作りした。

高校生時代には、家では風呂の水張り担当だったため、水が一定の高さまで溜まると笛が鳴る装置をあえて電子回路を使わずに開発したりした。

そのため、広瀬は、子供たちにものつくりの楽しさと重要性を知ってもらおうと、1997年から日本機械学会主催の「ロボットグランプリ」なども開催し、自ら組織運営委員長を務めている。

東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にある「統合創造工房」の設立にも、広瀬は大きく貢献している。

かつて、機械物理工学科では理論の研究が重視されており、ものつくりはどちらかというと軽んじられていた。

しかし、両方の重要性を感じていた広瀬は学科に働きかけて募金活動を始め、古い建物を改装して工房を設置した。そして統合創造工房の一部にそれが引き継がれたのだ。

現在では、「大道芸ロボットコンテスト」が開催されるなど創造性教育の拠点となっている。

その他、発明協会主催の「全国少年少女チャレンジ創造コンテスト」の委員長や、世の中の問題を解決できるトップエンジニアの育成を目的とする早稲田塾の「スーパーロボティクスプログラム」の教授を務めるなど、子供から高校生、博士課程の大学院生に至るまで幅広い世代の後進の教育にも情熱を傾けている。

「42年間にわたり、ロボットの研究にまい進させていただいた東工大には心から感謝しています。とはいえ、退職後も休んではいられません。気持ちを新たに、社会に役立つロボットの研究開発と後進の育成に努めていきます」 そう語る広瀬の表情は充実感と使命感に満ち溢れていた。

広瀬茂男研究室

広瀬名誉教授の研究をもっと知りたい方はこちら!

東工大の研究をもっと知りたい方はこちら!

記事提供:東京工業大学

東京工業大学