水陸両用、原発で作業もできる「ヘビ型ロボット」はこうして生まれた

広瀬茂男氏、研究者としての原点を語る
東京工業大学 プロフィール

まず、広瀬はシマヘビを持った瞬間、腹の縁のところがスケート靴のエッジのような形になっていることに気付いた。ヘビの腹にあるウロコは前後方向に滑りやすい構造になっている。ところが、腹の縁は角張っておりこれがエッジの役割を果たしていたのだ。ヘビはスケート靴と同じ原理で推進力を得ていたのである。

また、筋肉の動きを詳しく調べるため、ヘビの身体に筋電計をいくつも装着してデータを取り、解析していった。時にはヘビと同じ形と重さの木製のブロックにヘビが脱皮したあとの抜け殻を貼り付け、引っ張る実験も行った。

さらに、人工芝生の上に木片などの障害物を置いたりビー玉を敷き詰めたりし、ヘビがその上や中をどうやって移動するのかなども検証した。

加えて、ヘビはゆっくり進むときは胴体を浮かさないものの、素早く動くときだけ胴体を大きく曲げ、その一部を浮かして進んでいることもわかった。広瀬はそこには力学的な理由があるに違いないと考え、その解明に努めた。

さらに、ヘビが移動する際に描くカーブについても、ある法則を持っていることを突き止めた。そして、その法則を数式化し、「サーペノイド曲線」と名付けた。

このように、ロボットを作るのに必要なヘビの身体のしくみを解明しながら、アルミニウムと鉄を使ってヘビ型ロボットを開発していったのだ。

次々と開発、150台を越える

「1972年12月26日に、完成したACMⅢを試運転したときの感激は今でも忘れられません。その様子はまさにヘビそのもので、機械がまるで柔らかい生き物のように動き始めたのです。私は一瞬にしてロボットに魅了されてしまいました」

広瀬はさらにヘビの観察とヘビ型ロボットの改良を続け、1976年、その成果を基に博士号を取得した。

その後も、研究室の学生らと共同で、障害物の多い場所で活躍する「ACM-R4」や、空気圧で動き、伸び縮みする「スリムスライム」などユニークなヘビ型ロボットを次々と開発していった。

そして、その中の1つに、今後、原発事後現場での活躍が期待されているACM-R5があったのだ。

「開発当初は、水陸両用にすることで災害救助などでの適応範囲が広がるのではないかと考えていましたが、図らずも原発事故の後処理に有用であることが分かり、大変嬉しく思っています」

ACM-R5
  水中でも動くACM-R5 Photo by Getty Images

ヘビ型ロボットと並行して、足を使って階段などを上るロボットの開発にも着手した。

ある時、ザトウグモという足の長いクモを見つけた広瀬は、そのメカニカルな動きに興味を抱き、このクモの参考に4本足のロボットの開発に取り組み始めた。

1979年に完成させた2号機では、触覚センサーを搭載することで、階段を上まで転ばずに上ることに成功した。それがオハイオ州立大学の教授の目に止まり、1980年にはDARPA(国防高等研究計画局)のプロジェクトに参画することとなった。

組み立て工場ロボット
  ヘビ型ロボットを応用しものをやんわりつかむ手のようなロボットや、しなやかに伸びて作業をしてくれる腕のようなロボットも開発。2008年には、日産の依頼を受け、これらのロボットを基に開発した車両の組立工場で作業員を支援するロボットを開発し、それでカルロス・ゴーン賞を受賞している

さらに、国や企業の要請に応じて、対人地雷除去ロボットや惑星探査用ロボット、水中探査ロボット、配管内ロボットなど人が行けない場所や危険な場所に人の代わりに行って偵察や観測を行ったり、作業をしたりするロボットを次から次へと開発していった。その数は優に150台を超えるという。