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水陸両用、原発で作業もできる「ヘビ型ロボット」はこうして生まれた

広瀬茂男氏、研究者としての原点を語る

「柔らかいロボットで人の役に立ちたい」

常識をくつがえす「ヘビ型ロボット」を開発した広瀬茂男・東京工業大学名誉教授。独創的なロボットはいかにして作られてきたのか、ロボットで「役に立つ」とはどういうことか、縦横に語ってくれた。

東京工業大学 広瀬茂男 名誉教授広瀬茂男(Shigeo Hirose)
東京工業大学名誉教授
1947年東京都生まれ。1976年東京工業大学制御工学専攻博士課程修了。機械物理学科助手。専門はロボット工学。1979年東京工業大学機械物理学科助教授。1992年東京工業大学機械物理学科教授。2011年東京工業大学大学院理工学研究科卓越教授。2013年東京工業大学名誉教授。(1999年IEEE Pioneer in Robotics and Automation Award、2006年紫綬褒章、2009年The Joseph Engelberger Robotics Award など受賞)
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東京工業大学 研究ストーリー 顔 東工大の研究者たち Vol.3(2013年取材)より

日本が直面する課題の解決が我々の使命

「ロボット研究は一言で言えば目的達成学。何のために作るのかが重要なんです。

社会の役には立たないけれども面白い研究はいくらでもあります。しかし私は常に社会に本当に役立つものを作るという信念の下、ロボット研究を行ってきました。

ですから、私の持っている知識や技術が役立つというのであれば、別にロボットという形でなくても全然構わないと思っているんです」

数多くの独創的なロボットの開発で世界的に著名なロボット研究者、広瀬はロボット研究の目的をこう語る。そしてこう続ける。

「特に今、日本は福島第一原発事故の後処理や、笹子トンネルの崩落に代表されるインフラや建造物の老朽化など数多くの問題に直面しています。

そういった山積する問題に対して、最適な解決策を提供することが私や東工大に課せられた使命であり、それによって初めて我々の存在意義を世の中の人たちに認めてもらうことができると思うのです」

広瀬が東工大大学院制御工学専攻に進学したのは、1971年4月のことだった。1976年には同専攻博士課程を修了し、助手、助教授を経て、1992年には機械物理工学科の教授となった。

そして、2013年3月、65歳となる広瀬は、42年間に及ぶ東工大でのロボット研究者としての生活に一区切りつけようとしている。その間、育てた博士課程の学生の数は41人、修士課程の学生の数は300人を超える。

退職後は、広瀬の研究室の卒業生と留学生が2004年に立ち上げた東工大発ベンチャー「HiBot(ハイボット)」を拠点に活動していく計画だ。HiBotは「ヒロセ・ラボラトリー・ロボット」の頭文字を取った社名で、最先端ロボットとロボット制御に不可欠な制御・駆動用コンポーネンツの開発、販売を行っている。

すでに広瀬のもとにはHiBotを通じて多方面から原発事故関連の相談が複数寄せられている。原子炉の放射能汚染除去、その後に続く原子炉の解体など、ロボットを使った遠隔操作でなければ進められないことが山ほどあるからだ。

中でも「このロボットにしかできない」と言われ期待を寄せられているのが、水陸両用ヘビ型ロボット「ACM-R5」だ。

これは2005年に開催された愛知万博で初めて一般公開され、話題となったロボットだ。現在、瓦礫と水が散乱する原発事故の現場では、わずか十数センチのすき間に入り込み、内部の様子を偵察できるロボットが求められている。このようなことができるのは現在のところ、ACM-R5以外にないという。

水陸両用ヘビ型ロボット「ACM-R5」
  水陸両用ヘビ型ロボット「ACM-R5」。ヘビが身体をくねらせて推進力を発生させるしくみは、地上でも水中でもほとんど変わらない。そこで、広瀬は水に対してエッジの役割をする水かき板を胴体の側面に取り付け、推進力を出すようにした。加えて、水かき板に小さな車輪を付けることで、陸上でも素早く動けるようにした

世界中のロボット研究者を驚かせたヘビ型ロボット

そもそもロボット研究の分野において、広瀬の名を最初に広く知らしめたのが、1972年に完成させたヘビ型ロボット「ACMⅢ」だった。ACM-R5の原点となるロボットだ。

「当時、ヘビ型ロボットなんて研究している人は世界中探しても私だけでしたから、学会に持っていくとどの会場でも大ウケでしたね」 と広瀬は振り返る。

実は、広瀬が東工大の修士課程に進学したのもヘビのように柔らかくてフニャフニャした機械を作りたいと思ったからだ。

「私はスプートニク世代なので、横浜国立大学の学生時代は宇宙やロケットに興味があり、隣でロボットを作っている同級生を見て、なんてつまらないことをやっているんだろうと思っていたんです。

ところが、ある時、『ロボコン博士』のニックネームで知られる森政弘東工大名誉教授が著書の中で、“柔らかい機械”の面白さについて述べられているのを読み、是非とも自分の手で柔らかい機械を作ってみたいと強く思ったんです」

そして、東工大の梅谷陽二教授の研究室に入り、最初に挑戦したのがヘビ型ロボットの開発だった。

モチーフにヘビを選んだ理由は、細長くしなやかな動きをするロボットを作ることができれば、災害救助や配管点検などさまざまな用途に役立てられるのではないかという工学的な期待に加え、なぜヘビは足がないにもかかわらず、あんなに素早く滑らかに移動したり、木に登ったり、泳いだりできるのかを力学的に解明したいという理学的な興味があったからだ。

広瀬が研究開発に着手した1971年当時、ヘビがどのようなしくみで移動しているのかを工学的に研究している学者は1人もいなかった。そのため、広瀬はまずはヘビの動きを詳しく調査、解析することから始めなければならなかった。

「当時、渋谷の宮益坂の坂下にヘビ料理屋があってね。そこでヘビを売っているというので、すぐに買いにいきましたよ。1匹1500円のシマヘビを6~7匹買ってきたでしょうか」 と広瀬。

そして、人工芝生の上にシマヘビを解き放ち、その動きを熱心に観察し始めた。