通巻2000点を達成した科学新書で地学が「新定番」になった理由

科学技術とブルーバックスのあゆみ⑥
ブルーバックス編集部 プロフィール

創刊半世紀を迎える前後からのひとつの傾向として、「地学」の分野の充実もあげられる。

従来はあまりヒット作が出ない分野とみられ書目が極端に少なかったのだが、東日本大震災による地震への関心の高まりも受け、『山はどうしてできるのか』(B1756 藤岡換太郎)、『図解 プレートテクトニクス入門』(B1834 木村学/大木勇人)、『地球を突き動かす超巨大火山』(B1925 佐野貴司)などが好評を博し、コンスタントに刊行されるジャンルとなってきている。

2014年9月27日、御嶽山が噴火して58名の死者が出たときには、2001年に刊行されてすでに品切れとなっていた『Q&A 火山噴火』(B1326 日本火山学会編)を急遽、PDF版で全文無料公開し、噴火についての知識の普及に寄与した。

同書は2015年、最新情報を加筆した改訂版『Q&A 火山噴火127の疑問』(B1936)となって刊行されている。

プレートひしめく日本列島の上に住む私たち日本人にとって、地学の知識の重要性は今後、ますます増していく。ブルーバックスがこれから果たすべき大きな役割が、地学分野にあることは間違いない。

ブルーバックスにとっては、年に一度、日本中が「科学」に関心を寄せるノーベル賞をいかに企画にとりこむかも大きなテーマである。

2014年は青色LEDの発明によって赤﨑勇、天野浩、中村修二の3名が物理学賞を同時受賞しておおいに沸いたが、編集者の苦労はここから始まり、翌年には受賞者自身による『天野先生の「青色LEDの世界」』(B1932 天野浩/福田大展)の刊行を実現して大きな話題となった。

日本人のノーベル賞受賞者(科学部門)が著者となったブルーバックスは、これが4作目である。

前述したように、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した分子生物学者の利根川進は、その後、脳科学に転身し、現在は理化学研究所脳科学総合研究センターのセンター長も務めている。

2016年、この利根川率いる脳研究集団が分担執筆し、利根川自身も第1章の著者として名を連ねる『つながる脳科学』(B1994 理化学研究所脳科学総合研究センター)が刊行された。

各章で紹介されるさまざまな角度からの最前線がひとつに「つながる」同書は、今世紀ブルーバックスの主要テーマとなった「脳」におけるひとつの集大成といえるだろう。

一方で、シリーズのこれからを担う書き手を発掘することも重要である。

2011年に刊行されて大きく部数を伸ばした『物理数学の直観的方法〈普及版〉』(B1738)は、1987年に出版され「伝説の名著」と評判だった同名の書籍(通商産業研究社)を新書化したもの。

一般的な知名度こそないものの、著者の長沼伸一郎は理工系の大学生などからの人気は絶大で、2016年には『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』(B1984)と、『経済数学の直観的方法 確率・統計編』(B1985)が立て続けにヒットし、シリーズを支える貴重な書き手となっている。

もうひとつ、ブルーバックスだから可能なチャレンジに、新たな仮説の提唱がある。

新書の本来の役割は「啓蒙」とされているが、合理的・科学的な議論を重ねたうえで、従来の定説への異論を世に問うことは、科学新書ならではの刺激的かつ有意義な試みといえる。

前出の『ミトコンドリア・ミステリー』『プリオン説はほんとうか?』がまさにそうだが、2005年に『DNA複製の謎に迫る』(B1477)でデビューしていた武村政春が2015年に上梓した『巨大ウイルスと第4のドメイン』(B1902)も、あらゆる生物は「真核生物」「細菌」「古細菌」のいずれかのドメイン(生物の最上位の分類)に属するという定説に異を唱え、2000年代に入って続々と発見されている巨大ウイルスは既知のどの生物とも違う「第4のドメイン」を構成していると主張して話題を呼んだ。

そして2017年1月、ついにブルーバックスは通巻番号が2000番に達する。書目は『日本列島100万年史』(B2000 山崎晴雄久保純子)、地学分野である。

はたしてブルーバックスが3000冊を数えるとき、あるいは22世紀に入るとき、日本の科学はどうなっているのだろうか。そしてブルーバックスは、それをどのように映しだしているだろうか。

◆「科学技術とブルーバックスのあゆみ」バックナンバー一覧はこちら