2019.03.26
# 科学教育

新書の常識を超えた分厚い「教科書」が規格外のベストセラーになった

科学技術とブルーバックスのあゆみ⑤
ブルーバックス編集部 プロフィール

07年、21世紀の旗手・池谷裕二が待望の第2作、『進化しすぎた脳』(B1538)を上梓する。同名の単行本(朝日出版社より04年刊行)に最新研究を加えたもので、高校生に講義していくというスタイルをとりながら、前作のテーマである「記憶」のほか、「意識」とは何か、コンピュータと脳は何が違うのかなど、より哲学的なテーマにまで踏み込んでいる。

池谷自身が「高校生の頃にこんな講義を受けていたら、きっと人生が変わっていたのではないか」という自信作は、21世紀第3位の19万部を記録した。

同年には異色のヒット作も2点、生まれた。

サブタイトルに「ドレミ…はどのようにして生まれたか」とあるように、物理学者である著者が「音律」「音階」がなぜ生まれるのかを物理的・数学的に分析した『音律と音階の科学』(B1567 小方厚)は、活字にならない音を扱うというハンディをものともせず8万部を記録した。

病理医にして『チーム・バチスタの栄光』などで人気作家となった海堂尊が、持論であるAi(死亡時画像病理診断)の重要性を説いた『死因不明社会』(B1578)は、小説やテレビドラマでの海堂ファンとブルーバックスをつなぐ効果もあげ、同じく8万部を記録している。

21世紀ブルーバックスの大きな支柱となってきた生命科学の分野で、ついにホームランが生まれたのは2010年のことである。『カラー図解 アメリカ版 大学生物の教科書』(第1巻〜第3巻 B1672〜1674 いずれもD・サダヴァ他著 石崎泰樹/丸山敬監訳・翻訳)だ。

米国ではマサチューセッツ工科大学をはじめ各大学で採用されている生物学の教科書『LIFE』をカラー印刷で翻訳したもので、第1巻は細胞生物学、第2巻は分子遺伝学、第3巻は分子生物学をテーマにしている。

MITマサチューセッツ工科大学(MIT)全景 Photo by Getty Images

「検定外教科書」同様の分厚さで、びっしりと生物学用語が並んでいるにもかかわらず、第1巻の10万部をはじめ、合計約24万部の売り上げを記録し、「なぜここまで売れるのか?」という驚きの声は編集部からさえ上がった。

その要因はおそらく、カラー図版の美しさもさることながら、記述が詳細でありながら単に網羅的なのではなく、論理的に「わかる」面白さを味わえることにあったのではないか。

出版不況の裏返しともいえる新書戦争が続き、ただ見かけが「読みやすそうな本」ばかりが増えるなかで、この成功は編集部に自信を与えた。

※最終回「2011〜2017年(1708〜2000番)」はこちらからどうぞ!

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