「ブルーバックス」の名前の由来となった名言「地球は青かった」を残したガガーリン Photo by Getty Images

1963年、ブルーバックスの創刊第1冊目『人工頭脳時代』その中身

科学技術とブルーバックスのあゆみ①
2017年に無料配布され、現在はプレミアが付いている「幻の冊子」こと『講談社ブルーバックス通巻2000番記念』より、発掘連載を特別配信。
ブルーバックス創刊の1963年から通巻2000番を達成する2017年まで、科学技術の変遷を追いながらブルーバックスの人気作・話題作を紹介。科学書から戦後が見えてくるレア企画、毎週火曜日に6週連続でお届けします!

1963〜1981年(1〜484番)

国産初の連続テレビアニメ「鉄腕アトム」が放送を開始し、明くる年には東京オリンピックが開催される、そんな日本が希望と熱気に満ちていた1963年9月、「科学をあなたのポケットに」を発刊のことばとしてブルーバックスは創刊した。

有人宇宙船ボストーク1号に搭乗し、人類で初めて宇宙空間に飛んだソ連の宇宙飛行士ガガーリンが「地球は青かった」と言ったのが1961年。その言葉が人々の記憶にまだ新しく、ブルーは科学を表す象徴的な色ということで、シリーズ名称が決まった。現在も刊行している新書レーベルとしては、岩波新書(1938年創刊)、中公新書(1962年創刊)についで日本で3番目に長い歴史を持つ。

創刊第1冊目は『人工頭脳時代』(B1 菊池誠)。まだコンピュータを電子計算機と呼んでいた当時、それを「人工頭脳」という言葉に置き換えて将来の可能性を論じている。

人工頭脳時代

前書きには「……電子計算機が進軍してきたら、一体どういうことになるのだろう。科学技術が進歩すればするほど、それは科学にたずさわる者だけの問題ではなくなってくる」とあり、すでに現代のAIにも通じる状況を見据えていたのには驚かされる。

翌64年には、東海道新幹線が開通し、10月10日に東京オリンピックが開幕。ピーター・ヒッグスがヒッグス粒子を予言したのもこの年である。

絶版にならずに今でも「生き続けている」書目の中でシリーズ最長寿となる『計画の科学』(B35 加藤昭吉)が出版されたのが65年、初版から52年を経て現在77刷を数える。

66年から67年にかけては、その後のシリーズの柱となる現代物理学の2大テーマから、それぞれベストセラーが生まれた。『相対性理論の世界』(B79 ジェームズ・A・コールマン著 中村誠太郎訳)と『量子力学の世界』(B101 片山泰久)だ。

前者はシリーズ最多の100刷のロングセラーとして今も読まれている。後者は、日本人初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹による序文が出色である。

「相対性原理は哲学的な色彩を帯びていた。それが多くの人の関心の的となった理由の中の一番重要なものであった。しかし、量子力学は相対性原理にまさるとも、おとらぬ哲学的な問題を投げかけたのである。特にひとつの原因のひき起こす結果は、かならずしもひとつにきまっていないという不確定性は、私たちのものの考え方に深刻な影響をおよぼさざるをえないのである」

ヒッグス粒子が発見され、標準理論が完成してもなお残る現代物理学のミステリアスな魅力を象徴する一文に、当時の読者もきっと知的好奇心をかきたてられたに違いない。

物理学と並んで統計学もシリーズの定番テーマのひとつだが、その嚆矢となったのが『統計でウソをつく法』(B120 ダレル・ハフ著 高木秀玄訳)。68年刊行で、以降、統計学をテーマにした書目は30冊近くに上る。

同じ年、のちにシリーズ最多17冊を手がけることになる都筑卓司『パズル・物理入門』(B126)でデビューする。その後、『四次元の世界』(B142)、『マックスウェルの悪魔』(B152)、『不確定性原理』(B155)、『タイムマシンの話』(B170)とベストセラーを量産し、著者累計325万部という異例の記録を作る。

科学書といえば「堅苦しい、小難しい、読みにくい」というイメージを払拭するかのように、星飛雄馬の大リーグボールを題材にするなど巧みな解説と、親しみやすい語り口で読者を魅了した。

社会に目を転ずると、69年に回転式ダイヤルの黒電話に代わり、プッシュホン電話が登場した。カラーテレビが急速に普及しだしたのもこの頃で、テレビ生産台数では日本が世界一の座に。

GNPでも、当時の西ドイツを抜いて米国につぐ世界第2位の経済大国となり、戦後最長と言われたいざなぎ景気によって、日本の経済成長率は毎年10%を超える勢いだった。

しかしなんといっても、記憶に残るこの年の出来事と言えば、アポロ11号による人類初の月面有人着陸だろう。