「中国に乗っかり日本も儲ける」官邸の目論見は絵に描いた餅だ

安倍・習の急接近でも、現実味なし
河東 哲夫 プロフィール

実現した案件はわずか

中国の実業家は決断が速いが、問題は、決断を組織として行うのでなく、個人が行うことが多いので、何かを約束しても「消えてしまう」ことが多いことだ。予定していた政府予算や銀行融資がつかないこともあるし、社長が不正容疑で有罪判決を受けることもある。そうすると中国の施行主はある日、突然、消えてしまうのである。

インドネシアではジャカルタ・バンドン間の新幹線建設を請け負ったにもかかわらず、土地買収費用負担をめぐってインドネシア政府との話し合いがまとまらないために、建設は始まっていない。

インドシナ半島、あるいはタイ、ミャンマーでの道路、鉄道建設は比較的進んだ方だが、パキスタンのグワダル港と新疆地方を結ぶ「経済回廊」建設案件は、地元反政府勢力による妨害を受けている。

スリランカでのハンバントタ港、アフリカの紅海の出口にあるジブチでの港(基地)建設はうまくいっているが、バングラデシュとモルディブでの港建設案件では、日本、西側諸国、インドの介入を受けて、撤退している。モルディブでは3月、親中政権が危機に陥ると、中国軍艦が接近し、これにインド海軍が強力に介入して追い払った例があった。

中央アジアでは、シベリア鉄道並みの東西を結ぶ鉄道を作る案も、ほとんど進展していない。中国‐中央アジア‐ロシア‐欧州の鉄道路線は、既存のものがあるが、中国・欧州間の貨物輸送のおおむねはスエズ運河経由の海路で行われている。だから中央アジア経由の路線を作っても、採算が合わないものとなろう。

だいたい、新線がどの国の如何なる経路を通るかについても、合意がまだできていないのである。

 

鳴り物入りで2013年発足したアジア・インフラ投資銀行(AIIB)も、これまでの融資実績はわずか54億ドル。しかも、その多くは西側金融機関との協調融資である 。

2017年には念願の最上位の格付けを数社から受け、世界金融市場での起債ができる態勢が整ったのにもかかわらず、これまでの中国政府等の拠出した資本金(500億~1000億ドルの間)の枠から一歩も外に出ようとしていない。

もしかすると、米国との貿易戦争で、貿易黒字の減少を予測した中国政府が、負債を増やすような起債をAIIBに控えさせているのかもしれない。

そのあたりを、AIIBの西側理事に聞いても、要領を得ない答えしか返ってこない。西側理事は、AIIBの真の政策決定からは隔離されているのであるまいか。

AIIBだけではない。米中貿易摩擦で中国の貿易黒字が減少するにつれ、対外経済協力の力も減退していくだろう。中国の外貨準備は公称3.1兆ドルとされているが(8月末)、民間の対外債務(外銀からの借り入れ、社債起債等)はその約半分に相当する。中国政府・人民銀行としては、外貨を気前よく対外融資に回せないだろう。