家電の謎機能と謎スイッチ、なぜ増える? 考察したら怖いことに…

東大教授にお題エッセイを頼んでみた
佐倉 統 プロフィール

ひとたび根絶されたかに見えたガジェットたちも、時間が経つにつれてよみがえり、じわじわと勢力を回復してくる。30年経ってふと気がつくと、いつの間にか身の回りは再びガジェットであふれかえっていて、出がけにエアコンの謎のランプが付いたままになって、佐倉が焦るという状況だ。

ガジェットは不死身だ。根絶することは、不可能なのかもしれない。

 

技術者がユーザビリティを忘れてしまう理由

どうしてこういう事態が生じるのか?

根源は「差異化」である。他社の類似製品と、あるいは自社の前の製品と、何か違うところを付け加えないと「新しい」製品にはならない。ほんのちょっと、違う機能が付け加わる。

より便利に。より快適に。そのためにはリモコンのボタンがひとつ増えるかもしれないが、だからといって、ユーザビリティが大きく下がるわけではない。いいんじゃないか。……以下、その繰り返し。

こうして他の製品とはほんの少し違う家電製品が誕生する。そして、わずかに違う種類が、どんどん増えていく。冷蔵庫でもテレビでもなんでもいい。カタログを見ていただきたい。その類似製品の多さは目がくらむほとである。

Appliance StorePhoto by Getty Images

似たような形の似たような機能で、区別のつかないアルファベットと数字だけの型番が付けられたものが、ずらっと並んでいる。家電の断片化だ。

家電も生物も「断片化」で進化?

このように、他と差異を付けることが駆動力(エンジン)となって、微細に異なるものが次々と増えていく現象は、生物の進化と同じである。

生物進化も、種内の個体差があることで生じるものだ。わずかに違う形質の差が環境への適応度の差となって、繁殖力にわずかな差が生じる。それが何世代も累積していくと、たくさん子孫を残す形質が増えていく。ダーウィンの自然選択だ。自然選択とは、要は、種内の個体差の分布が時間の経過に伴って変化していく過程である。

これは、個体差が環境への適応能力の差と相関しているときに生じる。環境の違いと無関係な個体差はただのバラツキだが、両者に相関関係があれば、やがては環境の違いに応じてだんだんと違う生物(種)になっていくことになる。

この現象は種分化 (speciation) と呼ばれる。もとはひとつの種だったのが2つになり、さらに時間とともに多くの種に分かれていく。つまり、生物の断片化である。

家電と生物が同じように進化、あるいは断片化していくのは、どちらも、総体としてみれば、ある種の情報が自己複製するシステムだからである。

家電製品は製品の設計(デザイン)に関わる情報が、生物は身体や行動の設計に関わる遺伝子(遺伝情報)が、どんどん自己複製して増えていく。

その際に、外部の環境──家電の場合はエンジニアの思い、生物の場合は生息地の環境──の違いに合わせて(適応して)、自己複製する情報が少しずつ違うものになっていくのである。

この進化──断片化は、避けることはできない。