「カサンドラ症候群」の人がぶつかる"障害受容"という大きな壁

「カサンドラ症候群」自覚と回復の道⑦
野波 ツナ, SORA プロフィール

私も相手も変わらない、でも関係調整は諦めない

SORA 耳が聞こえない子は耳が聞こえない状態で100点なんですよ。欠けてるところはないでしょう。

野波 耳が聞こえない状態でその子はまんまるだと。で、アスペルガーの人も特性ありきで……。

SORA まんまるなんです。

野波 だからそのまんまるを、そういうことなのねっていうふうに見ればいいと。

SORA それが受容です。

野波 カサンドラの特に初期の方は、夫を変えるということにすごく熱心な人がいますね。どうしたら夫はこういうふうになってくれるのか、こうしてくれるのかっていう相談が多いんですけど、それはもう諦めろという感じですか?

SORA 諦めるっていうか、受容ですよね(笑)。諦めるっていう言葉は全然ない。諦めない。諦めないです、私。

 

野波 そういうもんなんだから。変える、変えないっていう問題じゃないですよね。だからこの水をじゃあオレンジジュースにしましょうっていうのは無理だと。

SORA 水はオレンジジュースにはならないので、その関係を変えましょうっていう。関係、環境を変えてくことにフォーカスして、そこは諦めない。でも水はオレンジジュースには変わらないということを受容するんです。

野波 それで、自分も変わらない。

SORA 柔軟に工夫することは必要です。でも自分らしさを我慢して変わる必要ありません。自分らしさは失いません。だから何にもつらくない。凹む必要もありません。

私も夫が何でも否定してくることに対して気が滅入ってしまった時期はあるんですよ。全く共感を得られないことがすごくしんどい。自己肯定感が下がるしカサンドラ状態です。否定が障害特性からくることが分かっててもなってしまう。診断が出た後も同じです。本人が認識していかない限り関係は変わらないっていう話をいつもしています。

私が奈落の底に落とされたように感じたのは、夫の言葉ではなく、夫を診断してくれた医師の「ご主人は障害を克服しています。私にできることはありません。後は、奥さんがコーチングしてください」という言葉でした。

私はこれまで、仕事でもプライベートでも問題は一人で抱えてはいけないと考えてきました。それなのに、こんな大きな試練を前に誰の手も借りられないという現実を知って、目の前が真っ暗になりました。夫との生活で自信を失っていく自分を自覚していたので、このままではいけないと必死に第三者をさがして、地元の素晴らしい保健士さんと出会えたので救われたんです。

野波 たとえ離婚という方法でも、距離をおくことができれば、憎しみも時間とともに薄れていって早くなくなる気がしますね。モラハラや浮気などがあるとそう簡単には言えないのかもしれませんが。

SORA モラハラや浮気をされた方にも、私は諦めてもらいたくないです。相手を憎み続ける一生なんて誰も陥りたくないはずですから。

カサンドラさんは「どうして、こんなに私は変わってしまったのだろう。人を憎んだり、羨んだりするような性格ではなかったのに」と言うんです。みなさん、元の愛情あふれる自分に戻りたいのです。

私は、誰でも戻れると信じています。諦めはありません。その時に、大切なのは、要因になったアスペルガーのことは脇に置いて、カサンドラさんが自分を大切にすることにフォーカスしていくことなのです。それができるようになれば、だいぶカサカサ状態から抜け出すことができる

野波 かなり抜けてますよね。新しい人生って感じですね。

SORA そこまで行かないと、次のステップに進めないと思うんですよね、相手の障害が見えていないとなぜ、自分が上手くいかなかったのか、不可解なままです。相手が悪いと言い切れない人が多いのでしょう。

そうすると、相手が悪くないなら、自分が悪かったのかもしれないと自分を責めるわけでしょうね。どっちも、オッケー、違いがあるだけって思えばいいだけのことです。

野波 自分の人生の新たな一歩ですね。「また失敗するんじゃないか」とか、そういう気持ちを抱えてるうちはなかなか次に進めないですもんね。

*『カサンドラ症候群』はDSM-5(アメリカ精神医学学会が定める診断基準で国際的に広く用いられている)に記載されておらず、正式な病名ではありません。また『アスペルガー症候群』も『自閉症スペクトラム障害』という診断名に統合されていますが、現在のところ、日本の医療現場や社会では広く使われているので『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』シリーズ及びこのインタビューではそのまま表記しています。

〈構成・文/松本愛 次回に続く〉

SORA  アスペルガー・アラウンド代表。2001・2003年に長男と夫がアスペルガー症候群の診断を受ける。13年間の特別支援学校の勤務経験、自身のアダルトチルドレン克服の体験を活かし、2013年にカサンドラを支援する非営利団体を発足。共感の場「しゃべりば」の普及に努める。関わる立場から発達障害を理解する講座「カサンドラのためのASD勉強会」講師。「カサンドラ脱出プログラム」企画・運営。