「遠藤姓」を名乗る二人の在日コリアンの、数奇な出会い

きっかけは、一本の記事だった
新垣 洋 プロフィール

まさかこんなことが…

街頭で日の丸や旭日旗を掲げ、在日コリアンに向かって「ゴキブリ」「日本から出ていけ」などと罵詈雑言を浴びせるヘイトスピーチが台頭してきたのは2005年頃からだろうか。経済のグローバル化にともなう雇用不安、拉致問題、北朝鮮脅威論などが複合的に重なり、在日コリアンに向けられるまなざしは日増しに冷たくなっていた。

そんな空気に違和感を覚えた筆者は、在日コミュニティーの取材をはじめ、彼らの生の声を聴き続けた。そんな中で出会ったのが、京都に住む遠藤道雄さんだった。

「関東大震災という災禍の中で、苦しんでいる朝鮮人を助けてくれた日本人がいた。彼のような日本人がいたということを、忘れないでほしい」

 

その記憶を残したいと思い、執筆したのが先の記事だ。手前味噌だが、読者の反応は上々だった。日本人の読者からも在日コリアンからも「あの時代にこんな日本人がいたんだね」といったメッセージが届いた。

筆者執筆の記事。公開は2016年の9月2日

書いてよかった・そう胸をなでおろしている時、記事は太平洋をまたいで米国カリフォルニア州ロサンゼルスに暮らす一人の在日コリアンにも衝撃をもたらしていた。

記事を読んだきっかけは、友人からFacebookにリンクが送られてきたことだという。タイトルを見た瞬間、「もう一人の遠藤さん」は思わず声を漏らした。

「まさかこんなことがあるなんて……」

遠藤正聡さんは、在日コリアンながら高校まで大阪の日本の学校に通い、大学は東京へ。卒業後いくつかの職を経験して30代の半ばで渡米。以来、アメリカで暮らしており、永住権も取得している。そんな遠藤さんも、子供のころからなぜ自分たち家族が「遠藤姓」を名乗るのか、不思議に思っていたという。

日本にいる時、父親からその由来をなんとなしに聞かされていたが、いまひとつ信じきれずにいた。よもや、別の遠藤姓の在日コリアンがいるとは想像だにしなかったのだ。

「自分以外にも遠藤を通名にした韓国籍の方がいらっしゃったことに驚き、また感動しております」

記事を読んだ遠藤さんは、筆者のもとにこんなメールを送ってくれた。筆者は、すぐに京都の遠藤道雄さんに連絡をいれた。

「遠藤さん以外にも遠藤さんがいました。米国のロサンゼルスにいらっしゃるそうです!」

ホンマかいな……の次の言葉が出てこない様子が、電話口から伝わってきた。「福岡の遠藤さん」を探し回った日々が遠藤さんの頭の中を駆け巡る。

「福岡にもう一人いるいう話は聞いとったんや。その遠藤さんはどこに住んどったんやろ。ぜひ会ってみたいわ。米国在住か。日本に来る予定はないんやろか?」

聞きたいこと、話したいことは山ほどある。それは米国にいる正聡さんも同じだった。すでに家族を亡くし、身より頼りのない日本に赴くのは簡単なことではなかったが、今年9月、念願叶い、正聡さんが京都の道雄さん宅を訪れたのだ。