吉野家「8億円超の赤字転落」の背景に見えた二つの要因

さらなる懸念も見えてきた
加谷 珪一 プロフィール

深刻な人手不足

原材料価格の高騰に加えて、大きな減益要因となっているのは、言うまでもなく人件費の高騰である。都市部においては、時給1000円ではアルバイトを確保することがかなり難しくなっており、かなりの金額を上乗せしないと必要な要員を確保できないことが多い。

人手不足のなか人件費が高騰している〔PHOTO〕iStock

2018年2月期におけるパート社員の人件費は364億円で、前年度との比較で約19億円増加した。テナントの賃料も上がったことなどから販管費の総額は65億円以上も増え、これが利益を圧迫している。同社では人件費の高騰に対応するため、店舗の4割をセルフサービスに切り替える方針を明らかにしているが、外食チェーンのオペレーションは意外と複雑であり、完全な省力化は難しい。

 

さらに気になるのは広告宣伝費の増加である。

同社の広告宣伝費は前年度比で約8%増えたが、これで何とか売上高を維持している様子がうかがえる。日本の国内消費は冷え込んでおり、客足が堅調とは言い難い。消費者の財布の紐は固く、人件費の高騰などコスト増加分を価格に転嫁すれば売上高が減ってしまう。

会社としてはコストをかけても宣伝を強化し、来客数を伸ばすことで価格を据え置きたいと考えている。これが広告宣伝費の増加につながっているわけだが、このやり方にも限界がある。

今回、吉野家が赤字転落という事態になったが、低価格を武器にする外食チェーンはどこも似たような状況に陥っている。すき家を運営するゼンショーホールディングスや松屋を運営する松屋フーズなど競合他社は、赤字にはなっていないものの、四半期決算は大幅な減益だった。

人手不足が深刻化している現状を考えると、パート労働者の人件費が下がるとは考えにくく、どこかのタイミングで価格への転嫁を迫られるのはほぼ間違いない。

忍び寄る金利上昇の足音

さらに困ったことに、マイナス金利政策の導入以降、ほぼゼロ近辺に張り付いていた長期金利がジワジワと上昇を始めている。金利上昇の直接的な原因は米国の景気が堅調に推移し、米国の長期金利が上がったことだが、それだけが理由ではないだろう。

総務省が発表した8月の失業率は2.4%と近年では希に見る低さとなっている。日本における過去の失業率と物価上昇率の関係を見ると(いわゆるフィリップス曲線)、失業率が2.5%を切ると物価上昇に弾みが付くという傾向が顕著となっている。日銀は明示的には表明していないが、国債の買い入れ額は大幅に減少しており、事実上、緩和策からの撤退が始まっている。