「パクリ疑惑」というだけで、なぜこんなに炎上してしまうのか

「知財リテラシー」を楽しく磨こう
稲穂 健市 プロフィール

実際に侵害となるかどうかは、このようなロジックで考えていく必要がある。また冒頭で紹介したレンタルカートの訴訟のように、著作権侵害とは別に、周知・著名な他人の商品表示などを使用する行為については不正競争行為と判断される可能性がある点にも注意が必要だ。

このような思考をするには、知的財産権に関する体系的な理解が欠かせない。だが、ネットの情報には断片的なものが多く、また、不正確なものや誤解を与えかねないものも少なくないことから、正確に理解できていない人も少なくないように思う。

専門家とされる人々のコメントも、必ずしも正しいとは限らない。特に、「情報が少なくて正確な判断が難しいケース」や「白か黒かどちらかの立場でコメントせざるを得ないケース」や「識者の発言をマスコミが独自にまとめたケース」においては、結果的に正しいコメントになっていない場合がある。

また、ウェブ記事やブログなどに掲載できる文字数では、様々な知識レベルの読者すべてに対して、例外なども含めて正しく情報を伝えることは容易ではない。

 

「大迫半端ないってTシャツ」の権利

ここまで著作権と不正競争防止法による保護について話をしてきたが、知的財産権には、そのほか、商標権特許権意匠権などがある。それぞれ発生条件、保護対象、保護期間などが異なり、また、侵害であるかどうかの判断基準も異なっている。さらに、知的財産権に関連が深い権利として、肖像権などの権利も存在する。

たとえば、既に過去の話となった印象も強いが、今年6月、「大迫半端ないってTシャツ」の画像がSNSを中心に急激に拡散して話題となったことがある。このときの騒動には複数の権利がかかわっている。

まず、商標権である。創作者の権利を保護する著作権とは異なり、商標権は営業標識を保護するための権利である。より具体的には、商標とは他人の商品・サービスと区別するための「目印」ということになる。

この「大迫半端ないってTシャツ」については、各種の模倣品まで作られたが、最初に売り出した男性は、「被服」などを指定商品として「OSAKOHANPANAITTE」を4年前に商標登録していた(商標登録第5711702号)

そのことから、呼び方が同じ文字列をあしらった類似品のTシャツがすべて商標権侵害であるかのような誤解も生まれた。

文字列が「目印」ではなく、単なるデザインとして使われている場合は、裁判などで「商標としての使用」にはあたらないと判断される可能性もあるし、商標が類似しているかどうかも、「外観(見た目)」、「称呼(呼び方)」、「観念(意味合い)」から総合的に判断されるから、実際に侵害しているかどうかは、そう単純に判断できるものでもない。

さらに、このTシャツに「大迫半端ないって!」と絶叫した相手チームの元主将の似顔絵が描かれていたことから、「元主将は肖像権を主張でき、お金を取ることができる」といった方向性の記事まで出ていた。

だが、元主将がテレビカメラの前で発言した内容が放送されたなどの事情を考慮すると、このデフォルメ化された似顔絵により生活に悪影響が出るなどの精神的苦痛を受けているのでもなければ、さすがに肖像権侵害が認められるのは難しいだろう。

また、芸能人など著名人には、自己の肖像などに顧客吸引力に基づく経済的な価値があることから、自己の肖像などを商業的に利用できる「パブリシティ権」という権利があるが、元主将の肖像の顧客吸引力によってTシャツが売れていると考えるのも難しいように思う。

ここで考慮すべきは、むしろ元主将のデフォルメ化されたイラストを最初に描いた人物の持つ「著作権」であろう。

このようにひとつの事例においても複数の権利について考慮しなければならないケースが増えており、その場合、短い文字量で正しい知識を伝えるハードルはさらに上がってくる。

また、一般的な専門書でも、権利ごとに解説がなされることが多いことから、読者に対して様々な知的財産権を網羅的に理解させるのは難しいという現状がある。