自殺者は平成21年から徐々に減少してきていますが、自殺を考えたことがあるという人は増えているそうです。また、19歳以下の自殺者数はほぼ横ばいとなっています。つまり、「死にたい」と思ったことがある人や、自殺リスクのある若者は減っていない、ということがわかります。
「死にたい」という気持ちや自傷行為が本当の死につながるリスクは、非常に高いといわれています。あなたの大切な誰かが、自殺について考えたり、自傷行為を繰り返していたら、あなたはどうしますか?
国立精神・神経医療センターの精神科医・松本俊彦氏監修の『自傷・自殺のことがわかる本 自分を傷つけない生き方のレッスン』は、自傷や自殺を考える人へのメッセージであることはもちろん、周囲の人がどうサポートするかについても参考になる1冊です。監修者の言葉から、自傷・自殺の問題点と本書刊行の趣旨を、紙面とあわせてご紹介します。
上記の自殺に関する動向は、『自傷・自殺のことがわかる本 自分を傷つけない生き方のレッスン』より参照しました。本書で参考にしている警察庁の自殺統計原票データはこちらから、厚生労働省の「平成28年度自殺対策に関する意識調査」はこちらから、ご覧になれます。
自傷や自殺をつぶやく人を誤解していませんか?
リストカットなどの自傷をする人や、SNSなどで「死にたい」とつぶやく人は、さまざまな誤解や偏見にさらされています。しばしば耳にするのは、「人の気を引こうとしている」という批判です。
しかし、本当にそうでしょうか。そうした行動や発言の多くは、人目を避けてこっそりと、あるいは匿名のかたちでおこなわれます。どう考えても、人の気を引くのに効果的なやり方とはいえません。
「リストカットする奴/『死ぬ』という奴にかぎって死なない」といった決めつけもよく聞きますが、これもまちがいです。
たしかにその人たちは、今はまだ自殺する決意を固めていないかもしれませんが、「死にたいくらいつらい状況」にはあるのです。ですから、もしその状況が長期間続けば、自殺が差し迫ったものとなる危険があります。
事実、さまざまな研究は、自傷や「死にたい」気持ちを経験した人は、将来の自殺死亡率が非常に高いことを明らかにしているのです。

人に助けを求めない孤独を理解できますか?
自傷や自殺する人には、ある共通する行動パターンがあります。
それは「つらいときに人に助けを求めない」ことです。
たとえば、自傷をくり返す人は、「人は裏切るけれど、リストカットは決して裏切らない」と信じ、誰かに助けを求めるかわりに自分の体を傷つけます。「死にたい」と考える人は、その気持ちを誰かに打ち明けた結果、無視されたり、否定されたりするのを恐れて、SNSでひそかに思いをつぶやきます。

もしかすると、この人たちの行動のなかでもっとも自傷的なふるまいは、リストカットでもオーバードーズ(過量服薬)でもなく、「つらいときに人に助けを求めない」ことなのかもしれません。
「切りたい」も「死にたい」も、そう珍しくはない
しかし、こうしたことは一般の人々にはあまり知られていません。
それどころか人々は、自傷を繰り返す人や「死にたい」とつぶやく人に苛立ち、ともすれば叱責や説教でそうした言動を禁止して、表面上の解決に躍起となる傾向があります。これでは、自傷的な人たちは心を閉ざして孤立を深め、ますます人に助けを求めなくなるだけです。
