ノーベル賞を利用する「インチキがん治療」に騙されるな

本庶教授に失礼な「医療」もある
及川 夕子 プロフィール

樹木さんでも語られた、アンチ抗がん剤報道

ご存知だろうか。抗がん剤は危険なもの、と多くの人が恐れるが、抗がん剤が「標準治療」として認められているまでの道のりはとても長く慎重だ。

「いくつもの候補の中から、膨大な基礎研究の結果と有効性が期待できるものを選び、”臨床試験”として患者さんに試されます。臨床試験になっても、厳しい基準のもとで、何百人の患者さんに繰り返し複数の検証試験が行われ、最終的に、”有効”と認められたものだけが、治療薬として承認される。現在、標準治療で使用されている薬は、気の遠くなるほどたくさんの薬の中から勝ち残り選ばれた、いわば“ひと握りのチャンピオン”なわけです。抗がん剤といえば、副作用が強いだけで、効果もない、と単純に言えるものではありません」

 

先日、がんで亡くなった樹木希林さんのニュース報道でも、アンチ抗がん剤なコメントが目立った。樹木さんは、2004年に乳がんが発覚、乳房の摘出施術を受けたのち、「全身がんを患い、四次元ピンポイント照射療法という、放射線治療の一種を選択した」と伝えられた。あるテレビ番組では、医師でもなく、医療の専門家でもないコメンテーターが「抗がん剤をやらなかったから最後まで元気だった」「四次元ピンポイント照射をやったことがQOLをあげた」とコメント。憶測での安易なコメントには、呆れるばかりだ。

そもそも、今回話題となった樹木さんの「全身がん」という言葉だが、これは正式な医学用語ではない。再発がんのことを言っているのであって、進行がんや遠隔転移のあるがんと呼ばれる状態のことを指した表現だ。

「一般的に、遠隔転移したがんに放射線治療は通常は適応になりません。全身にがんが転移した状態とは、がん細胞が血液やリンパ管に入り込んで、全身に周ってしまった状況なのです。表面に見えているがんは一部に過ぎず、その部分だけに放射線を当てても、全身に転移したがんを治療したことにはなりません。したがって、全身転移がんの場合、放射線治療ではなく、通常は、まず、抗がん剤を使ってがんを抑えることになります。放射線を使うのは、痛みを抑えるなど、部分的に症状を改善したい場合になります」と勝俣医師。

樹木希林さんの生き方が素晴らしいことと、樹木さんのがん治療がほかのがん患者にも合うこととは違う話だ。治療法はひとりひとりすべて違うことを認識しなければならない Photo by Getty Images

また、「すべてのがん=死に直結するという病気ではありません。進行が早いものもあれば、積極的治療を行わずに経過観察で何年も生きられるゆっくりながんもある。特に乳がんの場合は様々なタイプがあり、ホルモン受容体陽性のがんであれば、比較的進行がゆっくりで、長生きできる場合があります。

ただ、一人一人患者さんの病状は異なるので、個別の病歴や画像診断など詳細な情報がなければ、専門の医師でも個別の治療方針に関して正確なことはいえません。個別の情報がわからないのに、個人の患者の治療の良し悪しをコメントしている人は、無責任極まりないとしか言えませんね」と断言する。