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レントゲンは平気なのに、アレは禁止する…「不思議の国ニッポン」

ノーベル賞受賞者輩出国なのになぜ…?

ドイツ人の科学嫌い

これまでのノーベル化学賞の受賞者が一番多いのはアメリカで、2位はドイツ。物理学、生理学・医学の分野でも、ドイツはアメリカ、イギリスに次いで第3位。間違いなく、自然科学に秀でた国といえる。

なのに、不思議なことに、ドイツ人には科学に対する拒絶反応がある。たとえば、先進医学に対して。

30余年前、ドイツのヘッセン州の薬品会社ヘキスト社が、遺伝子組み換えで作ったインスリンの製造を申請した。ヘキスト社というのは、1863年に創立された世界有数の総合化学コンツェルンだ。

インスリンは、糖尿病の治療に欠かせないホルモンで、それまでは豚と牛の膵臓から抽出されていた。ただ、取れる量が少なく、1人の糖尿病患者が1年間に使用するインスリンを作るには70頭の豚が必要だったという。

 

当時、糖尿病の患者数は増加を辿っており、つまり、将来の危機的な状況が危惧されていた。それを救ったのが1970年代の遺伝子工学の進歩だ。遺伝子組み換えによるヒトインスリンが、激しい競争の末に完成し、製品として発売されることになった(糖尿病専門新聞『DITN』参照)。

そこで当然、ヘキスト社も参入しようとしたのだが、間の悪いことに、当時のヘッセン州の環境大臣は緑の党だった。彼は、「遺伝子組み換え」という言葉に激しく反応し、結局、ドイツのヒトインスリン製造は、他国に遅れをとること14年。

ドイツの糖尿病患者は止むを得ず、動物由来のインスリンを使い続けたが、動物由来のインスリンはしばしば拒絶反応を引き起こす。それが原因のいろいろな副作用も起きる。失明もその一つだった。

ドイツの糖尿患者がそんな茨の道を歩いていた頃、ドイツの化学企業の国外脱出が始まった。ヘキスト社もフランス企業と合併してフランスに移った。そしてその後も、合併や買収を繰り返すうち、2005年、この伝統的企業はついに消滅。張り切りすぎるドイツ環境派は、ときに自国の科学や企業の発展を妨害する。

ドイツでは、自然は絶対善で、科学は絶対悪だと思っている人が、特にインテリ層に多いようだ。子供に三種混合の予防接種を受けさせないのも、ほぼインテリの親に限られている。しかも、昨今、これまで予防接種とは無縁だった難民が多く入ってきているので、それもあって、ドイツでは麻疹の患者が増えている。

突発的に患者が出ても、それが大きな流行にならないためには、全体の95%の人間が予防接種を受けている必要がある(WHOの資料)そうだが、ドイツはそのリミットを切っている。麻疹は、まだ世界で年間14万人の人が亡くなる怖い病気だ。本当なら、予防接種は義務にしたほうがよい。

予防接種を拒否している人たちは、予防接種によって他の疾病が誘発される可能性などを挙げるが、実際にそれが起こる確率は、100万分の1よりもまだ少ない。それに比べて、麻疹にかかってしまうと、1000人に1人は死亡するというから、予防接種「悪玉論」は、はっきりいって破綻している。拒否の真の理由は、人工的なものに対する嫌悪だろう。

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