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酒類の全カテゴリーで「本気」を伝える!アサヒビール社長の経営哲学

大塚英樹の「成功するトップの覚悟」②
私は、成功する経営者は、好不況にかかわらず、成果の良し悪しにもかかわらず、常に危機感を抱いている、と考えている。その危機感はもちろん、目先の業績の良し悪しというような小さなものではない。根本的な産業構造の大転換に放り込まれ、答えがない中で、次なるビジネススタンダードでは自社の存続が根本から危うくなる可能性を間近に感じての危機感だ。

5年後、10年後、自社がマーケットから強制退場させられる事態を回避し、存続するためには何が必要か──見つめるのはただその一点。そんな大きな問題意識を抱きながら、今日という1日のマネジメントに挑み続けるのが成功する経営者だ。

アサヒビール社長の平野伸一も、そんな経営者の1人だ。平野氏の経営哲学を『確信と覚悟の経営 ーー社長の成功戦略を解明する』のなかから紹介する。

聖域なきコストリダクション(構造改革)を進める

 企業改革に成功してきた経営者に共通するのは、「本気」を伝えていることだ。自分の理念や方向性を組織に浸透させるために、自分の言葉で繰り返し語り続けている。

社員の反応は、2、3回では「また言っている」、5、6回では「重要らしい」、10回でやっと本気が伝わるといった反応であることを肝に銘じている。愚直に自分の理念やビジョンを何度も自分の言葉で伝え続けることが本気を伝える唯一の方法なのである。

 

本気を伝える第2の条件は、言行を一致させることだ。すなわち、自分の言葉で表現した理念や方向性通りの会社運営を実行することである。言行不一致は社員が「本気」を信じなくなり、経営者と社員の間の信頼関係が破壊されてしまうからだ。

平野伸一による企業改革はどうか。「№1ブランドの育成と構造改革を通じて国内酒類のリーディングカンパニーへ!」をスローガンにブランドの価値向上とイノベーションによる新価値・新需要の創造に取り組んでいる。

平野が、「酒類の全カテゴリー№1構想」という経営方針を示すことの意味は、自らの改革への理念、戦略を社員に向けて自らの言葉でまとめて示すことにあった。事実、その策定は平野が自らの思いを語り、経営企画部がまとめあげる形で行われた。

その構想を実現するために、平野はイノベーションと聖域なきコストリダクション(構造改革)を同時に進めると宣言した。

平野は2016年3月、社長に就任すると、茨城県の研究所を皮切りに全国の工場を回り、自分の理念、ビジョンを語る「伝道」を行っている。現在までに研究所、8つの工場を回り、幹部や社員たちに、繰り返し、自らのビジョンを伝え続ける努力を行っている。

とりわけ注目すべきは、平野が研究開発部門の社員と頻繁に対話を行っていることだ。まさに、この点にこそ、平野改革の特筆すべき点がある。

平野が研究員との対話を重視しているのはなぜか──。