現代思想のなかで「ヘーゲル」はどう解釈され、語られてきたか

一体どこが重要なのか?
仲正 昌樹 プロフィール

ヘーゲルが近代哲学の主要テーマのほとんどをカバーする形で自らの体系を築きあげたことは間違いないが、それを今頃になって再び声高に叫んでもシラケるだけだ。

そうやって大上段に構えるよりは、「精神」を中心とする「歴史」の発展法則を描いた大時代的な思想家であるにもかかわらず、それでもなお参照され続けるヘーゲル、あるいは、そうした大時代的な思想を解体しようとする現代思想の文脈でこそ頻繁に参照されるヘーゲルという奇妙な存在を、いくつかのアクチュアルなトピックに即して描き出してみたい。

「現代思想におけるヘーゲル」という本書のテーマの性格上、ヘーゲルその人の言説よりも、現代の思想家たちの言説の中に登場する様々な──相互に整合性があるとは限らない──「ヘーゲル」たちについて語ることになるので、オーソドックスなヘーゲル像からはかなりズレることになろう。

ヘーゲル自身のテクストからの引用はさほど多くない。ヘーゲル入門的なものを期待している読者には向かない。その点は予め断っておきたい。熱心な読者をいつのまにか思考の迷路へと誘いこみ、自分が今どこにいるのか分からなくしてしまう「ヘーゲル」たちの魅力を少しでも伝えることができれば幸いである。

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『ヘーゲルを越えるヘーゲル』目次

序──ヘーゲルの何が重要なのか? 
マルクスとセットで語られたヘーゲル/新しい「ヘーゲル像」の出現/現代思想の文脈でこその参照

第一章 「歴史の終わり」と「人間」
「歴史の終わり」
「冷戦の終焉」と哲学的テーゼ/マルクス主義の敗北という「終わり」/ヘーゲルの歴史哲学のポイント
コジェーヴの見たヘーゲル:「精神」とは何か
「歴史の終わり」をめぐる解釈/「精神」の発展の運動と自己反省の図式/理性の「普遍性」の問題と「進歩」の絡み/「歴史」には手を出さなかった哲学者たち/経験的社会科学の方法論との繋がり
「自由」を求める闘争
「共同体」と自己実現/「絶対精神」への見方/「自由」における自己実現の可能性/ホッブズとルソーの「自由」/「市民社会」に近代的意味を与える/「一般的理念」と「法」「人倫」「国家」/現実の闘争や消耗戦も肯定
「歴史」の終わりとナポレオン
啓蒙思想家とフランス革命/ドイツで発展した自由主義/ヘーゲル=コジェーヴの帰結
「歴史」の終わった後
アメリカを「階級なき社会」と形容/「人間性」を喪失して「動物性」へ回帰/「ポスト歴史」にも「人間」が存続する可能性/無歴史的に形成されたもう一つの人間性
もう一つの「歴史の終わり」方
ハーバマスのヘーゲル理解/リオタールは「歴史」を一つの「物語」とした/ハーバマスとリオタールの相違点/言語哲学的問題

第二章 「主」と「僕」の弁証法
「主/僕」の闘争とは?
人間の精神世界内でのみの存在/人間相互の関係における「主」と「僕」/「身体」と「精神」の統一/「主」の「精神」的主体としての自覚
「主/僕」関係に潜む矛盾
「僕」の両面性/「主への恐怖」が「知恵の始まり」/ヘーゲルの「労働」論/人間の「自己+他者」意識の発展
「労働」をめぐる闘争
「承認」と「自己意識」/「欲望」することが自由な「人間的自我」の条件/「闘争」から「歴史」が始まる/「歴史の終わり」テーゼは「主/僕」の弁証法の帰結
「主/僕」の〝階級闘争〟
「主」よりも自分のことを知っている/「主」への要求/承認をめぐる闘争史の終わり/国家において「公民」として「承認」
「承認」と「死」
「精神」と「教養の世界」の二重化/「絶対的自由」の危うさ/「純粋な一般意志=絶対的自由」の危険/宗教の本質を哲学的知により把握/「人間」の「終焉」をめぐる重要なテーマ
「主体性」=「従属性」
「人間としての生」を捨てる/フーコーが告知した「人間の終焉」/「規律権力」による「臣民」/「不幸な意識」と「良心」/フーコーが問題とした「欲望」の限定
「主体」の行方
「主体」の不安定化/「絶対知」の存在/「絶対知」の逆説的性格/ジジェクのラカン再解釈

第三章 承認論と共同体

ヘーゲルと倫理
保守的なイメージの道徳哲学/「啓蒙の弁証法」に対する哲学の抵抗
ヘーゲルとアドルノ
「労働」と「欲望」をめぐる問題系/「市民社会」の「非同一性」を評価/「同一性」は仮象なのか?/「同一性」に固執させる現象を「物象化」と呼んだ/偽りの「同一性」の完成に手を貸す
限定的否定
「否定=規定」をスピノザから学ぶ/細かく「規定」し、仕分けする/ヘーゲルの弁証法の再構築/「限定的否定」という戦略的態度/アドルノとポパーとの対立点
現代における「承認」論
政治思想の中の「承認」問題/テイラーの柔軟な自由主義/「主と僕」の弁証法とルソー型の「平等な尊厳」
初期ヘーゲルの「承認」論
ホーネットが参照した『人倫の体系』/三つのレベルの承認が軸/ミードの社会環境の中での自己発達論/新たな社会理論の展開の可能性
規範と歴史
ローティの「プラグマティズム」からの視点/「精神」発展論との距離/ブランダムの規範の形成と「語用論」/主体性の歴史的発展を強調/ハーバマスの普遍的コミュニケーション論/道徳の普遍性
「アンティゴネー」をめぐる闘い
「法vs.道徳」あるいは「実定法vs.自然法」/「共同体的心情」と「犯罪」を行う者/高次の視点に立ち「総合」/バトラーの精神分析的解釈/脱エディプス化的な倫理の可能性

第四章 「歴史」を見る視点
ヘーゲルにおける「歴史」と「哲学」
歴史を参照し知の体系を構築/未来は不確定という問題/「絶対知」の扱い
「私たちにとって」
「知」の対象が、「意識」の内容の場合/「経験」から「私たち」の視座が形成される/意識の本質をめぐる問題を提起
「私たち」の来歴と行く末
「全知の語り手」へのヘーゲルの逆説/『精神現象学』が示す循環構造/ガダマーの「地平の融合」
「私たちにとって」の実践
「理性的なもの=革命の理想」/キルケゴールとハイデガーの立場/ハーバマスのリッター、ローティ批判/ヘーゲルの形而上学化との訣別
観察者と行為者
アーレントとヘーゲルの歴史観/ヴィーコとヘーゲルは「歴史家兼哲学者」/「技術者」の視点を持った「歴史家」マルクス/「注視者」か「行為(参加)者」か
歴史の廃墟へのまなざし
ヘーゲル=マルクス系歴史哲学への非難/ベンヤミン的、屑拾い的な歴史家像/ファノンの「主/僕」の弁証法への言及/〝ヘーゲルが書けなかったこと

あとがきに代えて──「理由」が喪失する時
ヘーゲルの現代思想における位置/「理由の空間」論をめぐる議論

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