軍人でもわからない…トランプ政権「国防体制」の輪郭が見えてきた

軍が大きく変わっている
土屋 大洋 プロフィール

もちろん、中国のカウンターバランスとしてインド・太平洋軍が国としてのインドを意識しているのは明らかであり、中東からのシーレーンが生命線である日本にとっても、インドを中心とする周辺地域や海域の秩序と安定が守られることは、米国の国益と重なる部分が大きいだろう。

当の中国の海洋戦略はインド洋からアジア太平洋までの地域をひとくくりにした戦略ではなく、インド洋、南シナ海、西太平洋と、それぞれ違う表情をみせている。

インド洋では、パキスタンやスリランカなどで港湾拠点を築いているものの、南シナ海での行動と比較すれば、比較的穏やかだ。一帯一路構想も進んでいるだけに協調的姿勢をとっているといえる。

太平洋も、米国本土までというよりは、まだその関心は西太平洋までであるし、一触即発の状況でもない。一方、南シナ海の軍事拠点化は周知の通りである。宇宙から見る海はひとつにつながっていても、目線を変えればその実情は多彩である。

 

日本にとってのインド・太平洋軍

こうした米軍の変化が進む中で気になるのは日本の自衛隊である。自衛隊には陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊という軍種が存在しているが、常設的な統合軍は存在しない。フォースはあるが、コマンドは常設されていないことになる。

米軍の組織では、大統領、国防長官、そして制服の軍人が務める統合参謀本部議長という指揮系統になっているように見えるが、統合参謀本部議長は大統領と国防長官にアドバイスする立場であり、戦闘部隊の指揮権は持っていない。戦闘になると、大統領、国防長官、その次に来るのは各統合軍の司令官である。

日本の場合は、総理大臣、防衛大臣の順になり、その下に陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊の各司令官が来る。

統合幕僚長は米国の統合参謀本部議長のカウンターパートであり、フォース・プロバイダーである陸海空の自衛隊の上に位置するとともに、有事の際には作戦活動の補佐をすることになっている。

つまり、コマンドが常設されていないために、有事の際には実質的に統合幕僚長がいっそう大きな役割を担うことになる。

2011年の東日本大震災の際には、統合任務部隊が編成され、陸上自衛隊東北方面総監が指揮官となって陸、海、空の三自衛隊が組み入れられた。

当時、陸上自衛隊には陸上総隊が設置されていなかったために東北方面総監が指揮官になったが、今後は陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊のいずれかの司令官が指揮を執ることになるだろう。

有事の性質や場所に基づいて三自衛隊のいずれの司令官が指揮を執るかが決まるが、常設ではないため、それが決まるまでは統合幕僚長が、一時的にせよ三自衛隊の調整を担い、総理大臣および防衛大臣との接点になるだろう。

米軍のように最初から統合軍が編成されていれば即応体制が整っていることになるが、自衛隊はまず各軍種で初動を開始し、事態を見定め、必要に応じて統合任務部隊の編成に入る。

すべて米軍のまねをするのが良いわけではもちろんない。しかし、こうした組織の違いを認識しておくことは必要だろう。

日本にとっては、米国の首都ワシントンDCのホワイトハウスや国防総省との連携は不可欠である。しかし、それと同時に、実際の部隊を動かすインド・太平洋軍の組織について理解しておくこともまた必要である。

米軍の組織は実にわかりにくい。たくさんの軍事用語や略語に惑わされるとともに、どんどん組織変更が行われるからだ。内部にいる軍人たちも、自分の身の回りで起きていること以外はわかりにくいという。

アメリカ太平洋軍の研究』の出版後、なるほどそうなっているのかという感想をいただくことが多い。しかし、筆者たちがすべて理解しているとはとてもいえない。

例えば、詳細な部隊編成や作戦計画は機密になっている。外国人であり、セキュリティ・クリアランスを持っていない筆者たちは知ることもできないし、知ることができても公表することはできない。

それでも、この本はできる限りの情報収集と分析を試みた成果であり、今後の研究が続くことを希望している。