軍人でもわからない…トランプ政権「国防体制」の輪郭が見えてきた

軍が大きく変わっている
土屋 大洋 プロフィール

太平洋軍からインド・太平洋軍へ

もうひとつ、トランプ政権になってからの変化として重要なのが太平洋軍(USPACOM)からインド・太平洋軍(USINDOPACOM)への変更である。

今年5月まで太平洋軍司令官を務めていたハリー・ハリス提督は、任期終了が近づくにつれ、当初は駐オーストラリア米国大使へ任命される見込みになっていた。ところが、米朝関係が大きく変化するなかで、駐韓米国大使へと変更になった。

そして、ハリス司令官からフィリップ・デービッドソン司令官へと太平洋軍司令官が交代するセレモニーの際、それに出席したジェームズ・マティス国防長官が突然、「インド洋と太平洋の間の接続性が高まっていることを認め、今日、我々は、米国太平洋軍を米国インド・太平洋軍へと名称変更する」と述べた。

「長年、このコマンドは、変化する環境に何度も適応してきており、今日、アメリカが西に注目するにあたり、そのレガシーを携えていく」とも指摘した。

ジェームズ・マティス国防長官

筆者はこのセレモニーに出席していない。しかし、出席した人の目撃談によれば、マティス国防長官の言葉を聞いて慌ててスピーチ原稿を壇上で直していた人もいたという。それくらい唐突にこの発表は行われたようだ。

「インド・太平洋」の意味

いうまでもなく海には、インド洋から太平洋へ変わる境目はない。インド・太平洋軍の担任区域は、米国西海岸沖(沿岸および北米大陸は米国北方軍の担当)からインド洋の半ばまでである。

しかし、以前からインド洋は含まれていた。誰が「インド・太平洋」という言葉を使い始めたのかについては議論があるが、太平洋軍内部ではかねてから「インド・アジア太平洋(Indo-Asia Pacific)」、「アジア太平洋(Asia Pacific)」といった呼び方が混在して使われていた。

米国西海岸からインドまでの約40ヵ国、つまり地球の半分の表面積を担当しているインド・太平洋軍の重要性の高まりを受けて、筆者たちは、この7月に『アメリカ太平洋軍の研究』(千倉書房)を出版した。

 

印刷の直前に国防総省がインド・太平洋軍への改称を発表したため、本のタイトルについて慌てて再検討したが、予定通りでいくことにした。

担任区域が変わらず、組織変更もないというのが大きいが、もうひとつの理由は、日本語に訳したときに正確には「インド洋および太平洋」であるべき「Indo-Pacific」が、日本では「インド太平洋」と一般的に表記されており、この「インド」が国としてのインドだけを指しているとの誤解を生みやすいからだ。

もし書名を仮に『インド・太平洋軍の研究』ないし『インド太平洋軍の研究』とすると、読者はインドについて詳しく書いてあると期待するかもしれないが、インドについて大きく取り上げているわけではなかった。

先に紹介したマティス国防長官の演説における「インド洋と太平洋の間」は「between the Indian and Pacific oceans」と表現されており、「Indo-Pacific」はインド洋沿岸の国々と太平洋沿岸の国々を指している。国としてのインドと太平洋沿岸の国々ではない。

したがって、「インド太平洋」では本来の意味を伝えきれないと考え、「・」で挟むことで、「インド洋」と「太平洋」を意味するとしたつもりだが、これで良かったのかどうかは分からない。

いずれにせよ、新聞等では「インド太平洋」という表記が定着しつつあるので、筆者たちはマイノリティーになるだろう。例えば、外交青書や、日本が5月に主催した島サミットの首脳宣言などにも「自由で開かれたインド太平洋戦略」と書かれている。