患者思いの医者が、「診察室にこれがほしい」と期待するもの

覆面ドクターのないしょ話 第34回
佐々木 次郎 プロフィール

「くるりんシート」がほしい理由とは?

注射が終わると退室を促す。

「注射終わりました。起きていいですよ」

お年寄りはベッドから起き上がるのもひと苦労する。

 

起き上がろうとしたが、腰の部分で「くの字」に曲がったまま、途中で静止状態になってしまう現象をよく見る。これは、腹筋で上体を起こす力、そして上体を戻す重力、さらに「頑張ったけどやっぱりダメだ」という諦める気持ちとがバランスよく拮抗したために生じる。

諦めない気持ちが重力に勝れば起ち、諦めればベッドに沈む。私が救いの手を差し伸べないときは、カーテンにしがみついたり、窓枠につかまったりして、おばあちゃんはようやく起き上がる。

とりあえず、こんなとき、

「あれがあるといいなぁ」

と思うのは、つり革のような「持ち手」である。うちの病院でも取り付けたいのだが、老朽化した壁が崩れるおそれがあり、現在保留中である。

また、左右両方の膝に注射をする場合も患者さんに負担をかけてしまう。

診察室が狭くて、患者さんの左側がすぐ壁なので、私は左膝の横に立って注射することができない。うちの病院のベッドは上下には高さを調節できるが、回転はしない。よって、右側に注射を打ったあと、患者さんをいったん起こし、体の向きを換えてもらう。

こんなとき、

「あれがあるといいなぁ」

と思うもの、それは、尻の下に敷いて、くるんと回転できる座布団だ。

ネットで探してみたら、あった! いとも簡単に見つかった。「回転シート(クッション)」とか「くるりんシート」という商品が、通販サイトで紹介されていた。

元々は乗用車の座席に敷く商品らしい。四角いクッションの中央が円形になっており、これがくるっと回転する。車の乗り降りをサポートするために製品化されたが、介護用品としても使われているようだ。

「ナイス・アイディアだろ!」

と、医者仲間に教えてあげたら、即座に却下された。

「注射器を逆手に持って注射すれば、体位変換も、「くるりんシート」もいらないんだよ」

くるりんシート、せっかく見つけたのに……。

介護用ロボットは切実にほしい!

一人で起き上がれない患者さんには、優しく手を差し伸べて起こしてあげる。中には、自分で起き上がるのをはなから諦めて、体重を完全に私に預けるおばあちゃんもいる。これが結構重い! 歌人の石川啄木はこう詠っている。

たわむれに 母を背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩歩まず

だが、実情はそんなに甘くない。おばあちゃんが重くて一歩も動けないことだってある。このあいだ、私は、患者さんを介助したら、「グキッ」という音とともに左肩に激痛が走った。どうやら五十肩になってしまったらしい。

お仕事で ババを支えて そのあまり 痛さに泣けて 肩が挙がらず

こんなとき、

「あれがあるといいなぁ」

と思うもの。それは介護用ロボットである。

まずは上肢に取り付けて、私の肩・肘関節の曲げ伸ばしをアシストしてくれるロボットがほしい。私は患者さんの背中に手を差し入れ、あとはロボットが「グィ~ン」と持ち上げてくれるはずだ。

私は腰痛にも苦しめられており、ぎっくり腰も2度やっている。だから、上の機械に加えて、腰につけるロボットもほしい。

次郎先生に限らず、介助時の負傷によって満身創痍の医療関係者は多い(photo by gettyimages)

以前は大掛かりなロボットが多かったが、最近は腰だけに装着すればよいコンパクトな介護支援ロボットが開発されたそうだ。腰痛持ちのスタッフでも、女性でも患者さんを持ち上げられる。お姫様抱っこも可能だから、おばあちゃんに喜ばれるかもしれない。