夫の抜け殻に涙が

やがて、内臓をすべて取り出すために頭やのどを切られた跡が生々しい夫の遺体が、「急性心停止 死因不明」と記載された死亡診断書とともに、やっと私のもとに戻ってきました。まるで「抜け殻」のようになった夫が本当にかわいそうで、初めて涙が出ました。
 
抜け殻の遺体が戻って来て、お葬式はどうするかという段階になりました。私は長年、葬送の研究をしているとはいえ、お葬式の喪主なんてやったこともないうえに、その心積もりもないのだから、とにかく気がついたら、すべてが終わり、夫は骨になっていたというのが正直なところです。仕事でこれまで縁のあった葬儀社、火葬場の職員、僧侶などの知り合いが助けてくれたから乗り切れました。

「とにかく気がついたらすべてが終わり、夫は骨になっていた」と小谷さんは葬儀のことを振り返る。金曜日は普通に出勤していたのに、月曜日は遺骨になっているという現実は、とても受け入れられなかった Photo by iStock

葬儀を終えても、私にはなぜ夫が亡くなったのかが分からず、もやもやが残っていました。

夫の同僚たちからも「金曜日まで変わった様子がなく、いつも通り元気だったのに、なぜ亡くなったのか?」と、お通夜の席で何度も聞かれました。柩のなかの夫の喉には、着せたカッターシャツからも解剖の傷が少し見えていたので、「喉を刺して自殺したに違いない。でも、なぜ?」と思った人も多かったかもしれません。

人に自分が死んだ理由をたずねられても、夫自身が気づいていないかもしれないと思いました。

たまたま死の数週間前に行われた社内検診の結果を見ても、どこも悪いところはありませんでした。風邪で会社を休むことも数年に一度あるかどうかというぐらい、もともと健康でした。なぜ亡くなったのかを解明しなければならないという使命感が、私の中でむくむくと湧きあがってきました。