経産省が目論むITエンジニア「年収倍増計画」は実現できるか

平均600万円→1200万円に?

現時点の各社の年収を調べてみた

「DXレポート」には、「『2025年の崖』に適切に対応すれば、2030年の実質GDP130兆円の押上げ効果」が期待されるとも書かれている。このことから、「エンジニアの年収倍増計画」の達成のめどは今から12年後の2030年と想定しよう。

「2017年の平均年収約600万円」という値は、株式公開受託系IT企業183社の平均年収614.3万円(2017年、筆者調べ)とほぼ一致することから、経産省が受託系IT企業の就労者を念頭に置いていることが分かる。

【注:決算集計の対象は204社だが、平均年収は単独・個別の就業者をベースに算出。事業の実務を担わない純粋なホールディングカンパニーは就業者数が少なく、平均年収が高いケースが少なくないため、中央値に影響を及ぼす(平均値への影響は軽微)。このことから、単独・個別の就業者数が連結就業者数の10%未満で、かつ100人未満の企業は除外した。ネットサービス系も同様。数値は各社直近の有価証券報告書から】

具体的な金額を見てみると、まず183社の最高額は野村総合研究所(NRI)の1166.0万円、最低額はエコミックの332.8万円で、その差は833.6万円。中央値は91位・うるるの553.9万円で、平均値より60.4万円低い。平均値に最も近いのは55位・システム情報の613.8万円なので、36社が上ぶれしていることになる。

試みに平均年齢による補正値を計算したが、全体の傾向に影響するほど大きな差は出なかった。年収800万円超の11社が全体を引き上げている。

ちなみに、1人当たり売上高に占める平均年収の比率(労働分配率)は、中央値うるるまで91社が35.3%(1人当たり売上高は2056.6万円)、平均値システム情報まで55社は35.6%(2178.6万円)、年収800万円未満44社は29.1%(2342.7万円)、年収800万円超11社は44.2%(2078.1万円)、183社全体は36.8%(1668.4万円)だった。

 

一方、同じ集計をネット系179社についても行ってみると、全体の平均年収は594.4万円だった。最高額はグリーの810.3万円、最低額はホットリンクの320.5万円で、その差は489.8万円だ。

中央値は90位・スタートトゥデイの524.9万円で、平均値より69.5万円低い。平均値に最も近いのは38位・プロトコーポレーションの592.5万円なので、52社が上ぶれしていることになる。

労働分配率は、中央値スタートトゥデイまでの90社が13.8%(1人当たり売上高は4722.8万円)、平均値プロトコーポレーションまでの38社は13.9%(5145.9万円)、年収800万円未満の37社は13.6%(5231.1万円)、178社全体では14.1%(4210.0万円)だった。

受託系に対しネット系の就業者数は4分の1だが、1人当たり売上高は2.5倍と、労働生産性の点では大きく受託系を上回っている。

こうした現状を踏まえて、「エンジニアの年収倍増」は可能なのか。「DXレポート」は、その条件として「既存システムの維持・保守業務から最先端のデジタル技術分野にシフト」することを挙げている。

だが、受託系IT企業に勤めるエンジニアが全員「最先端のデジタル技術分野にシフト」できるかと考えると、いくら12年後とはいえ、困難に違いない。受託型ITサービス会社の経営者が例えば「受託型からAI、アジャイル、マイクロサービスなどの最先端技術を駆使した、クラウドベースのアプリケーション提供モデルに転換」することを決意するとは、とうてい思えないからだ。

発注者から言われたこと以外はしないのが、現在の「受託」の鉄則である。「火中の栗を拾わず」「羹に懲りて膾を吹く」が染みついているうえ、ダラダラと、しかし見かけ上はテキパキと仕事をするのが受託系でいう「いい技術者」である。

というのも、受託系IT企業は派遣する技術者を「1人1か月いくら」(1か月=180時間で計算するケースが多い)で契約している。技術者が能力を発揮して素早く仕上げてしまうと、会社への実入りが減ってしまう。かつては会社が「もっとうまく残業しろ」などと指示したものだった。